<武蔵野市で市民が「市議会廃止」を提言 山形県庄内町は「夜間・休日議会」導入を提案したが…>
「市議会の廃止」が普通の市民から提言された。
平成27年3月8日。東京都武蔵野市が32年度までの長期計画を策定するため、同市役所8階の会議室で開いた市民ワークショップ。
参加した75人が14グループに分かれて自由討議し、意見を発表。最後に投票した結果、「都市基盤、行・財政」分野で、「市議会の廃止」が「電線の地中化」や「若者が住める街」など他の意見をしのぐ18票を集めて、トップとなったのだ。
参加者は住民基本台帳からの無作為抽出で打診された市民。その一人の男性(65)は「議員自ら条例案の提出もできないし、市議会なんて執行部案をただ通すだけの無駄な存在。市民はみんなそう思っている」と切り捨てる。
市は今年4月に長期計画をまとめたが、「市議会の廃止」を盛り込むわけにはいかず、「(議会の)役割や責務についての基本的な考え方を整理し…」などと書き込むのがやっとだった。
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「都会の方が古いルールにとらわれ、遅れている」
4月下旬、寒さが残る福島県会津若松市。東京都中野区議会の内川和久議運委員長(56)は、同市の議会関係者と意見交換して感じた。
会津若松市では20年6月の議会基本条例施行を経て、議会への徹底した住民参加と「見える化」に取り組んでいる。
改革の二大柱は、議員が出身選挙区に関係なく手分けして地域を回り、住民の声を吸い上げる「意見交換会」と、政策討論会の場で住民が直接意見をいう「市民委員制度」である。政策形成のプロセスもすべて公開する画期的な試みだ。
旗振り役の目黒章三郎議長(63)は市議歴17年。県議選に落選して4年間の浪人中、住民の目線からは、議員の活動は見えづらいことを知った。
「議員は住民から白紙委任を受けているわけではない」
19年春に市議に復帰すると、同僚議員を巻き込み改革を主導。今では全国の自治体からの視察も相次ぎ、応対に忙しい。
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4月中旬に開かれた政策討論会。3児の母親で3月に市民委員に就任したばかりの後藤涼子さん(37)が9人の市議に交じって出席し、「住民に寄り添う議会になるため、どのような役割を担うか明確にすべきだ」と初めて発言した。
後藤さんは「異質な世界」の議会が「もっと身近なものになればいい」と応募した。資格は市議・職員を除く18歳以上の市内在住者。作文などで選考する。任期は約1年半で、これまで委員となった7人から市議も1人誕生した。
「何でバッジを着けている議員と市民が同等に意見を言うんだ」。当初あったあからさまな一部市議の態度も、改革が注目されるようになると鳴りを潜めた。議員間のメンツ争いを抑える効果もあるという。
ただ、自治体議会改革フォーラム事務局の亀井誠史さんは「こんなこともやっていなかったのかと驚くほど、日本の議会が遅れていた証しだ」と指摘する。
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博多港からフェリーで約5時間。長崎県小値賀(おぢか)町の港からは、水平線上に浮かぶ五島列島の島々の明かりが美しい。同町は佐世保市の西約80キロ、大小17の島からなる離島。人口約2600人の半数は65歳以上だ。
「満50歳以下の新人町議は議員報酬を月額18万円から30万円に引き上げる」
島が一時、注目を集めたのは平成27年3月、町議会が若手を呼び込もうとこんな条例を定めたからだ。30万円は町の最年少課長の給与とほぼ同額。ただ、翌月の統一地方選で50歳以下の立候補者はゼロ。当選者の平均年齢は64・9歳という結果に終わった。
「若者が町の主人公というメッセージを発信したかったのだが…」。立石隆教議長(65)は話す。
島の若者はどう受け止めているのか。米国留学を経て26年にUターンした旅館経営、岩永太陽さん(36)は「30万円は家族を養える額だが、自分は観光で島おこししたい」という。
一方、古民家を再生した宿泊施設を運営するNPO職員、前田敏幸さん(38)は「第1次産業中心の議員構成を変える選択肢のひとつ」。立石議長は「次の選挙でも50歳以下の出馬がなければ議会の責任」と危機感をにじませた。
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高齢化と人口減で地方議員のなり手も減る。昨年の統一選で、無投票当選率は道府県議選で21・9%と過去最も高く、町村議選でも21・8%。5人に1人は民意の審判を受けていない“ゼロ票議員”だ。
長年地方自治をみてきた竹下譲・拓殖大客員教授は語る。「このまま議員の不要論が高まれば、日本の民主主義は地方から崩壊する。復活には、住民の声をしっかり聞いて自分の頭で何をすべきか考える議員の存在が不可欠だ」
広大な庄内平野の真ん中にある山形県庄内町。人口2万2千人の町で、日本初の「夜間・休日議会」導入の行方が注視されている。
「いろんな資格や専門性を持った人、子育て世代が、働きながら議会活動をできる」。提案者の原田真樹町長=写真=は語る。欧米では定着するが、国内ではイベント的に年に1度開催といった例はあるものの、制度化した自治体はない。
庄内町は17年に余目町と立川町が合併。余目町時代から議会改革に着手し、町民との意見交換会も設置した。東京から地元に戻り、家業の弁当店を継いだ原田町長も町議時代の当時から改革をリードしてきた。
が、議会側は25年9月、改革に反旗を翻す。「議員活動日数の多さ」や「活動が全国的評価を受けている」ことを理由に、議員報酬の引き上げと委員長手当の新設を突如、原田町長に要求したのである。
「忙しくなった割には近隣自治体よりも低い」という高齢議員の不満があり、定数を2人削減する代わりに、1人当たり5万円増額、議会予算を年間600万円増やす内容だった。
町長によれば、議会側は事前調整なく記者会見で公表。「改革を逆手に取った裏切り行為」と受け止めた町長は、「収入のある人がボランティア的に働ける議会」を逆提案した。
議会での論争の末、報酬引き上げ派の議員が町民の反発を受け、26年の町議選出馬を断念。以後、議会側は問題を「封印」しているが、原田町長は2年後の町議選を再提案のタイミングにうかがう。「次の5年が正念場。自治体消滅が現実にならないよう、若く優秀な議員を確保しなければ」
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日本の中心、東京都千代田区でも動きが出てきた。
「土日・夜間議会」と「議員報酬の半減」を訴える任意団体「地方議会を変える国民会議」が、27年の統一選で、同区議選に候補者3人を擁立。僅差で敗れたものの、3候補の合計得票数は935票で民主党(760票)、維新の党(606票)を上回った。
同会議の発起人には、総務相などを歴任した竹中平蔵氏や作家の堺屋太一氏らが名を連ねる。手応えを感じたことで、次期統一選でも同じ改革を掲げて戦う。
実現には職員の勤務や手当、警備といった追加負担も生じかねない。だが、同会議から千代田区議に立候補した弁護士の岩崎孝太郎さん(34)は話す。
「できないといっていては何も変わらない。普通に働く人が集まれば、議会は身近なものになる」=おわり
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