中尾修研究員は2015年11月20日、香川県三豊市議会の議員研修会にて、議会報告会の意義や地方自治法の有効活用、さらには議会の今後のあり方などについて報告しました。以下はその記録をもとに加筆、修正し、まとめた概要です。
(文責:編集部)
機関としての議会が問われている
2011年から13年までの2年間、第30次地方制度調査会の臨時委員を務めたが、その中では地方議会のあり方が最も重要な問題として議論された。一般的な市民感覚では、「議員の構成が偏っていないか」ということである。もう少し住民代表らしく女性やサラリーマンを増やし、多様な人材を参入させる制度はどうあるべきかということであった。首都圏の議会では、女性や若者の占める割合が増えつつある。しかし、全体でみるとまだまだ男性中心で高齢者が多い。議会の構成を一気に変えるのは至難の業だが、介護や子育て等に関する問題の解決には、女性の視点や若者の考えが重要となる。今後、少子高齢化によって税収が減ることからも、「選択と集中」による政策の重点化・効率化を図っていかなければならない。議会は機関として地域経営の一翼として、かたまりでどういった仕事をするかが問われている。
議会は合議体としての議事機関、一方の首長は独任制の執行機関、「チェック&バランス」「抑制と均衡」がとれた制度で、これが二元代表制。議員は部分代表、首長は全体代表として選出される。議員は支持してくれた住民の思いを行政に反映させることになるが、同時に首長から提案される「まち全体」としての問題に向き合うことになる。ここでは機関としてどう対処するかが問われる。全体代表としての首長にどんどん質問をぶつけながら、質疑を通してその政策の完成度をチェックする。これがまず第一に議会に求められる重要な仕事である。
前総務大臣の片山善博先生が鳥取県知事に就任した直後の県議会で行った挨拶は、まったく無駄な言葉がなく、議会制度を見事に表現している。これこそが日本の地方自治と言えよう。
「私が議会にお諮りする案件について、県民の意思が他のところにあるとすれば、ためらうところなく修正を加えていただきたいと思います。また、私がお諮りしない案件につきましても、県民の意向を踏まえて必要があれば議員各位の発議により条例の制定などに取り組んでいただくことを望みます。これらのことでの遠慮は私には無用でありますし、これがそもそも我が国地方自治制度が想定している議会本来の姿でもあります。県政にずれがあるとすれば、それはもちろん執行部の責任でありますが、同時に議会の責任でもあります。私は県民の代表として、真に県民のための県政を実現するため全力を尽くします。議員各位におかれても、同じく県民の代表として県民の総意を県政に反映させるべく、積極果敢な議会活動を展開されることを切望する次第であります」
(『月刊ガバナンス』2015年5月号)
議会基本条例に必要な3つの要件
2005年以降、北海道栗山町議会では年1回以上、議会報告会を実施している。この報告会は議会の単独開催ではなく、自治会や町内会と共同で実施しているので、自治会長や町内会長が冒頭あるいは締めの挨拶を行うことが多い。そして、開催の案内は議会広報誌に載せるほか、町内会や自治会の方々の自主的な呼びかけもあって、参加者が極端に減ったりすることはない。ぜひ自治会や町内会との共同開催をご検討いただきたい。秋祭りや小学校の運動会と同じように、年中行事の一つとして毎年同じ時期、同じ時間帯に議会報告会を開催することで、住民との意見交換を通じて信頼関係を築くことができる。さらに、議会報告会が終わった後には、直近の本会議にて議会運営委員会の委員長からその結果をきっちりと報告して議事録に残していただきたい。このように議会報告会を公式にしていくことが何より重要だ。
報告会の会場レイアウトも敵対しないで話し合えるように、コの字型や円型の車座になるように工夫する。大きな会場では無理かもしれないが、議員と市民が互いに分かれてぶつかり合うような構図にならないように気をつけていただきたい。
全国から視察に訪れる人たちが絶えない福島県会津若松市議会の議会基本条例には、「議決責任」を盛り込んでいる。これにより議員は議案などを議決した時は市民に対して説明する責務を有する。また、北海道栗山町議会の議会基本条例には、「議会の活動に関する情報の公開を徹底するとともに、町民に対する説明責任を十分に果たさなければならない」とある。そこまでしないと議会は成熟していかない。
東京財団ではこの栗山町議会の基本条例を原型とし、2010年1月に議会基本条例の3つの必須要件を示した「東京財団モデル」を公表した。
- 議会報告会(意見交換会):議会が一体となって民意を汲み取り、その仕組みを住民が体験する機会となる。住民の信頼を獲得するには、議会が住民生活の場に出向くことが不可欠であり、住民が議会を通して政策決定過程に関与する機会となる。
- 請願・陳情者の意見陳述:住民が抱える懸案事項について議会で意見を述べることを希望した場合、それを保障しなければならない。運営実態では慣例として行っている議会もあるが、住民の権利として条例に明記し、周知することが重要である。
- 議員間の自由討議:議論は議会の醍醐味。議会は意見をぶつけ合い、結論を導き出すところである。議決行為よりも決定に至る過程がもつ実質的意味を重視することで、議員・議会の存在が明確になる。
3つの必須要件の中で最も難しいのは、議員間の自由討議であろう。議会側から政策を提案する際、あるいは修正案を議員側から提出する際には議員間討論は当然発生するが、それ以外はなかなかハードルが高い。例えば、住民から陳情請願が出た際には、その意見を中心に議員同士で議論できる。陳情請願の採択を行う時や議会報告会のまとめを行う時も有意義な議論が可能となる。
こうしたことからもお分かりのとおり、議会基本条例は住民自治を進化させるためのものであって、住民にとって使い勝手がよいかどうかが生命線である。
地方自治法を使いこなせ
総理大臣の諮問機関である第28次地方制度調査会にて議会のあり方が審議され、専門的知見の活用や常任委員会の議事案提出権を認める規定、さらには議会事務局職員機能に関する規定が定められた。特に地方自治法138条7項では「事務局長及び書記長は議長の命を受け、書記その他の職員は上司の指揮を受けて、議会に関する事務に従事する」ということで、これまでの「庶務を掌理する」から「事務に従事する」へと改められた。これは議会事務局の調査能力、政策提案能力、法制能力等の向上を図るという意味合いが込められている。続く第29次地方制度調査会の答申では、議会基本条例が地方自治法と矛盾しないことが確認されるとともに、地方自治法第96条2項に議決事件の拡大に関する規定が盛り込まれた。これにより法廷受託事務であっても、議決事件の対象にすることが可能となった。
そして、第30次地方制度調査会では通年議会が審議され、平成24年の地方自治法改正でいわゆる「通年会期制」が認められ、年4回の定例回数を見直すところが出てきている。議長が議会の開会宣言をしないと議員の公式な活動が始まらない。閉会もそのとおりである。そのため、東日本大震災の後は閉会できない議会があった。通年会期制のメリットは、やはり議会が常に活動できる状態にあるので、突発的な災害等が発生した場合にも迅速に対応できるということだ。また将来、冒頭で述べたように、通年会期制を採用することにより、多様な人材が参入できることになることも期待されるのではないか。これらは長年地方議会が国に対し要望してきたもの(議長による議会の収集権等の解消等)である。
このように整理してみると、地方自治法は現場の一歩先を行っている。議会がやれることのほとんどが用意されているので、ぜひ地方自治法を使いこなしていただきたい。
信頼ある議会活動の積み上げを
総務省が2013年1月22日に第30次地方制度調査会専門小委員会に提出した資料によると、わが国の総人口は2004年12月の1億2,784万人をピークに、2050年には9,515万人、2100年には3,770万人(低位推移)となり、今後100年で明治時代後半の100年前の水準に戻っていくという。この変化は千年単位でも類を見ない、極めて急激な減少である。高齢化率は19.6%から40.6%にも上る。また、2014年5月には、日本創生会議の人口減少問題検討分科会が、2040年には若年女性の流出により全国で896の市区町村が人口減少による消滅の可能性がある「消滅可能性都市」になると発表した。こうした状況下で、自治体は一体どうなるのか。
議会が今できることの一つとして検討していただきたいのが、予算審議の進め方である。ほとんどの議会が一般会計の審査後に特別会計の審査を行うが、議員は一般会計が終わったところで疲れ果ててヘトヘトになる。しかし、特別会計の国民健康保険事業には非正規雇用の問題、介護保険事業には超高齢化の問題、下水道事業には公共インフラの問題、病院事業には医療介護の問題といったように、今日の日本社会が抱える重要な課題が色濃く反映されている。自治法ではどちらを先に審議するかは決まっていないので、時には特別会計から先に審議することをお勧めしたい。一般会計の時と同じく、特別会計も緊張感を持って審議していただきたい。
今後、例えば道路とか老朽化した水道管改修といった行政サービスの問題がいろいろ起きてくる。議会はそうしたデータを紐解き、事務局と一緒になって戦略的に問題と対峙していただきたい。市民といかに向き合うかということが生命線の議会基本条例を中心に、市民から信頼される活動を積み上げていく議会に期待したい。
議会が今できることの一つとして検討していただきたいのが、予算審議の進め方である。ほとんどの議会が一般会計の審査後に特別会計の審査を行うが、議員は一般会計が終わったところで疲れ果ててヘトヘトになる。しかし、特別会計の国民健康保険事業には非正規雇用の問題、介護保険事業には超高齢化の問題、下水道事業には公共インフラの問題、病院事業には医療介護の問題といったように、今日の日本社会が抱える重要な課題が色濃く反映されている。自治法ではどちらを先に審議するかは決まっていないので、時には特別会計から先に審議することをお勧めしたい。一般会計の時と同じく、特別会計も緊張感を持って審議していただきたい。
今後、例えば道路とか老朽化した水道管改修といった行政サービスの問題がいろいろ起きてくる。議会はそうしたデータを紐解き、事務局と一緒になって戦略的に問題と対峙していただきたい。市民といかに向き合うかということが生命線の議会基本条例を中心に、市民から信頼される活動を積み上げていく議会に期待したい。
http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=1606&utm_source=mailmaga_20160128&utm_medium=email
0 件のコメント:
コメントを投稿