(2017.1.30付 河北新報より )
若者の政治参加を促し、地方議会を活性化したいという主張に異論はないが、市民感覚からすると、かつての「特権」を取り戻そうとしているようにしか見えない。
地方議員たちが厚生年金に加入できるようにしてほしいと、国に法整備を求めている問題である。
各地の議会で続々と意見書が可決され、その数は少なくとも29道県議会と8政令市を含む871市区町村議会に上り、全地方議会の半数以上を占める。東北でも青森を除く5県議会などが既に可決している。
2011年に廃止された地方議員年金制度に代わる措置として、厚生年金への加入を可能にし、引退後の生活不安による「なり手不足」を解消したいという。
だが、全国各地で政務活動費を巡る不正が相次ぎ、地方議員の公金意識には厳しい視線が向けられている。新たに巨額の公費負担が必要となるだけに、国民の理解が得られるとは考えにくい。
そもそも厚生年金に加入できるからといって、若い立候補者が増えるものでもあるまい。本当に地方議会の活性化を目指すのであれば、まずは信頼回復と議会改革の取り組みを急ぐべきだろう。
かつて地方議員には、自身の掛け金と自治体負担で運営される独自の年金制度があったが、「平成の大合併」などで地方議員の数が減って積立金が枯渇したことや、受給資格を得られる年数が短く、「特権的」との批判を浴びて廃止された経緯がある。
このため、現行制度で専業議員が加入できる公的年金は基礎年金の国民年金しかなく、老後への不安を訴える声が強まった。意見書可決を呼び掛ける全国都道府県議会議長会などは、政治に意欲があっても将来不安や家族の反対で立候補を見送る若い世代が多いと主張している。
しかし、基礎年金だけでは老後の暮らしが成り立たないと言うのなら、年金制度の改善に向けて行動するのが政治家の役割だ。そこに目をつぶって、自分たちだけ安定した年金収入を確保しようとするのは筋が通らない。
公務員であれ、民間企業のサラリーマンであれ、常勤またはそれに近い形態で働き、保険料を支出して支えているのが厚生年金である。地方議員の活動形態とは根本的に異なり、なじみにくいといった問題もあろう。
地方議員の厚生年金加入を可能にすれば保険料は雇用者である自治体との折半となるため、総務省の試算によると新たな公費負担は年間約200億円に上る。さらに廃止されたとはいえ、かつての地方議員年金の受給資格者への給付は今後約50年続き、これにも1兆円超の公費が必要と推計されている。
意見書は、やはり一般的な市民の金銭感覚とかけ離れていると言わざるを得ない。
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