人口減少と高齢化に苦しむ過疎地で議員のなり手不足が深刻化する中、長野県喬木村は村議会の主要日程を夜間や休日に移す方針を固めた。傍聴者を増やすため年に1、2回、休日や夜間に議会を開く例はあるが、総務省行政課は「主要日程をすべて移す例は聞いたことがない」という。
サラリーマンら平日の昼間に仕事を持つ若い層が仕事を続けながら、議員活動できるようにするのが狙いで、12月議会で導入を目指す。将来は全日程を夜間や休日に開くことも視野に入れている。
委員会は夜間に、一般質問は休日に
喬木村議会事務局によると、当面は委員会と議員全員協議会を夜間、定例会の一般質問を休日に開催する。審議時間の短縮を徹底させる方針で、一般質問にも簡潔さを求める。実施に先立ち、8月から全員協議会を夜間に開く試みをスタートさせている。
村は長野県南部伊那地方に位置する山村で、人口6200人。名古屋市から高速道路で約2時間の場所にあるが、1948年の1万人余りをピークに人口減少が続き、21世紀に入って減少ペースが加速している。
このままのペースで人口減少が続けば2040年に国立社会保障・人口問題研究所の推計で5127人、島根県中山間地域研究センターの推計で4653人に落ち込むと予測されている。
人口減少の影響は村議選で候補者を擁立できない地区を増やしている。中山間地域の議員選では、地区代表といえる候補を送り出すことが多いが、地区内に適切な候補者が見当たらなかったり、当選に必要な得票を地区内だけで確保できなかったりするからだ。
村議会の定数は12。過去5回の選挙では2001年、2009年、2017年の3回が無投票になった。2017年6月の選挙で議員の平均年齢は以前の66.6歳から64歳に下がったものの、4人が70歳代、5人が60歳代で高齢化が解消できていない。女性議員も1人だけだ。
村と村議会はこのままだと議員のなり手不足から議会の存続を脅かす事態になりかねないと判断、自営業以外の若い層やPTA活動をする女性が立候補し、議員活動しやすくなるよう対応を検討していた。
喬木村議会事務局は「従来のやり方で議会を維持するのは難しくなりつつある。休日出勤で村職員の負担は大きくなるが、議員のなり手不足を解消したい」と苦しい胸の内を打ち明けた。
傍聴者を増やすには一定の効果
これまでも夜間、休日議会を開催する市町村議会はあった。総務省によると、2015年で夜間議会は19団体、休日議会は51団体が実施している。だがほとんどが傍聴を促すのを目的とし、町村議会での平均開催日数は夜間議会1.8日、休日議会1.3日でしかない。
傍聴者を増やすという点では、一定の効果を上げている。茨城県大洗町は毎年3月に休日議会を開いている。2017年3月は小谷隆亮町長の新年度施政方針演説と当初予算案に対する質疑があり、普段は閑散としている傍聴席に町民約30人が押し寄せた。
大洗町の休日議会が始まったのは2009年から。当時、町民の間で議会不振がまん延し、「議会は何をしているのか分からない」という不満の声が上がっていた。政務調査費の廃止や議案ごとの議員の賛否公表などとともに、議会改革の一環で打ち出されたのが休日議会だ。
3月の休日議会では事前通告なしに原発の再稼働問題や空き店舗対策など次々に質問が浴びせられた。大洗町議会事務局は「傍聴が増え、議会が活気づいている」と目を細めている。
夜間議会と休日議会の両方を実施しているのが北海道浦幌町議会だ。休日議会は2000年から、夜間議会は2012年から年1回ずつスタートさせた。傍聴者は毎回20~30人を数える。数人の傍聴者しかいない平日昼間とは雰囲気が全く違うという。
浦幌町議会事務局は「夜間、休日議会とも町民の間で定着してきた。議会と町民の間に溝を生まないようこれからも開催していきたい」と語った。
欧米では当たり前だが、日本の議会は二の足
しかし、夜間、休日議会に全面移行する自治体は出てこなかった。総務省は
- 答弁に立つ職員の負担が大きい
- すべての日程を夜間、休日議会で消化しづらい
- 議員の地域活動に影響が出る
--などが理由とみている。
浦幌町も議員のなり手不足が深刻で、国に対策を求める意見書を提出するなど対応に頭を痛めている。夜間、休日議会への全面移行も検討したが、議員や職員の議会出席日数を考えると困難として見送った。
これに対し、欧米では夜間議会や休日議会が当たり前になっている。日本と多少制度が異なるものの、米国カリフォルニア州では夜間に議会を開き、住民の質問に議員が回答する形式が一般的。スウェーデンは議員に有識者や学生が多く、夕方に開いている。
大都市でも数人の議員しか置かず、高い報酬を支払う方式を採用する自治体があれば、地方議員を無報酬のボランティアと位置づけているところもある。民主主義の成熟度で日本と差があることは否めないが、誰もが政治参加しやすい制度にしている点は見習うべきだ。
人口減少や少子高齢化に解消の兆しは見られない。特に、過疎地の小規模自治体は存続が心配される状況に追い込まれている。地域の実情に合わせ、柔軟に制度を改めていかなければ、過疎地の地方議会は生き残れないのかもしれない。
高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。
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