早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第39回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。今回は、「地域で女性が活躍する社会を目指して~島田市の「女性議会」の取り組みから~」をお届けします。
一億総活躍社会とは
少子高齢化に直面した我が国経済の活性化策として、安倍首相は、「一億総活躍社会」を新しい政策の目玉として打ち出しました。「一億総活躍社会」とは、若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病のある方々も、一度失敗を経験した人も、みんなが包摂されて活躍できる社会。一人ひとりが、個性と多様性を尊重し、家庭で、地域で、職場で、それぞれの希望がかない、それぞれの能力を発揮でき、それぞれが生きがいを感じることができる社会、ということです。
今回のコラムでは、その中でも女性にターゲットを絞り、地域で女性が活躍する社会を目指した取り組みとして、静岡県島田市の「女性議会」を紹介します。この取り組みは、2015年の第10回マニフェスト大賞で、「優秀コミュニケーション・ネット選挙戦略賞」を受賞しています。
女性が初めて投票権を行使した島田市
島田市では、1876(明治9)年、当時の浜松県公選民会の代議人選挙において、市内の女性が日本で初めて投票権を行使したことに由来して、7月30日を「男女共同参画の日」としています。
また、2013年5月の市長選挙で、女性の染谷絹代市長が誕生しました。染谷市長の、「女性の市政・市議会に対する関心を喚起したい」という思いから、2015年度から「男女共同参画の日」の啓発事業として「女性議会」を開催することになりました。女性が市政運営に対する意見を発信できる場を設け、市政運営の参考とするだけではなく、政策形成過程へ参画する女性の人材育成を目的とした事業です。事業の担当は、地域生活部地域づくり課女性活躍推進担当が担っています。
インパクトのあるポスター
島田市の女性議会がマニフェスト大賞を受賞した理由は、その取り組みの内容も当然のことながら、何といっても、インパクトのあるポスターを作成して、市内の女性の関心を高めようとしたコミュニケーション戦略です。
2014年度の第1回は、初の試みだったこともあり、女性ファッション誌のイメージをまねた「JG(Jyosei Gikai)」で柔らかいイメージを強調。2015年度の第2回は、「Rock You!(心を揺さぶる)」をキャッチコピーに、一転して女性の持つ「熱」がポスターからあふれ出した力強いものになっています。両方ともにモデルは女性市民で、撮影からデザインまで、市の広報課が担当しました。ポスターは、図書館、幼稚園・保育園、高等学校など市内約50カ所に掲示され、新聞や個人のSNSなどで拡散されたこともあり、大きな話題となりました。
「女性議会」の進め方
女性議会の応募要件は、市内在住の高校生以上の女性です。第1回は11人、第2回は8人(どちらも高校生を含む)が登壇し、答弁は、市議会と同様に市長および市の幹部職員が行いました。応募に関しては、ポスターのほか、市内の各種団体にお願いしたり、市民活動を行っている人に個別に声掛けをするなどして集めました。女子高生、専業主婦、PTAの役員、NPO関係者、福祉関係者、会社経営者など、多様な女性が参加しています。
開催にあたっては、島田市議会が全面協力しました。議場での開催許可、議長による議事進行を行うほか、初めて議場に入る参加者のため、議会事務局は挙手のタイミングや、質問、再質問の方法などの事前説明を議場で行いました。
質問方法は、質問、再質問、答弁込みで20分、一問一答方式、一括質問一括答弁方式のどちらかを選択することができます。質問内容は、応募の段階で、質問したいことを質問通告書としてまとめてもらい、参加が決定すると、答弁担当課と内容についての事前打ち合わせを行って質問に臨みました。事前説明や事前打ち合わせの効果もあってか、緊張しながらも、堂々と質問をされたようです。
開催後は、一過性のイベントに終わらせることがないように、議事録を市議会と同様、市のHPに公開するだけでなく、答弁内容の進捗状況も公表しています。参加した女性のアンケートによると、「このような機会をこれからも続けていくと、女性の視点も活かされると思う」「もっと政治に興味を持たないとならないと思った」など、意識の変化や意欲の高まりが感じられる前向きな意見が多かったようです。
女性の声を地方政治に届けるには
女性の声を地方政治に反映させる一番良い方法は、女性の地方議員が増えることだと思います。しかし、地方議会の女性議員は圧倒的に少ないのが現状です。
公益財団法人「市川房枝記念会女性と政治センター」の調査によると、2015年の統一地方選後の6月現在、全国の地方議会に占める女性議員の割合は12.1%です。東京(25.5%)、神奈川(19.7%)など首都圏は比較的高いのですが、最下位は私の暮らす青森県の6.1%と、地方が比較的低いのが現状です。また、女性議員が1人もいない議会は、町村議会を中心に、20.6%もあります。
「女性は家庭」といった古い意識や、産休などの制度が完備されていないことなどもあり、女性地方議員はなかなか増えません。そうであれば、別の形で、女性の声を行政に反映させる仕組みが必要です。その一つが、島田市が開催した「女性議会」だと思います。
また、岩手県久慈市議会で開催されている市民との意見交換会「かだって会議(方言で、一緒になる、語り合うの意)」では2014年12月、女性議員がゼロだったこともあり(2015年7月の改選で女性議員は1人)、女性に限定した「女性版かだって会議」を開催。「女性が住みやすい街ってどんな街?」をテーマにワークショップによる対話が行われました(参考:「ファシリテーション」を身につけ議会に「対話」の文化を~久慈市議会での「かだって会議」「議員間対話」の実践から~)。
こうした取り組みが広がることで、女性の声が地方政治に届き、前向きにまちづくりに参画する女性が増え、最終的に地方議員になろうと思う女性が出てくる。そんな地域で女性が活躍する社会が実現することで、地域の更なる活性化は図られると思います。
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青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
http://seijiyama.jp/article/columns/w_maniken/wmk03_39.html
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