7月2日に迫った東京都議選。選挙前には、豊洲市場移転に関する経緯の不透明さが明らかになるなど、議会が政策のチェック機能を正しく果たしたのか、問われました。国家予算並みの財政規模をもつ都議会運営をみていくには、議員それぞれの情報収集・調査能力が重要です。そうした議員本来の活動支援のため、地方議会には法律で「議会図書室」の併設が定められています。都議会の利用はどのようになっているのか、現状を調べました。
議会は議員のために図書室を置かればならない
東京都議会議事堂。議会図書館は2階正面入り口から入り北側に面している
地方自治法100条第19項は、「議会は、議員の調査研究に資するため、図書室を附置し前二項の規定により送付を受けた官報、公報及び刊行物を保管して置かなければならない」と記しています。
つまり、国会の立法を補佐するために国立国会図書館が設置されているように、地方議員が、首長側が提案した議案が適正かどうか審査したり、住民の福祉になるような条例案を自ら検討したりする上で必要な調査、情報収集をサポートするための専門図書館という目的で置かれています。議会の議事録のほか、政府刊行物や官報、地方行政・議会に関する書類を保管も重要な仕事としています。
ロビーのように広々 都議会の議会図書館は議員閲覧用の個室も
議会図書室は議員だけでなく、一般市民も利用が可能です(同法第100条20項)。都議会の議会図書室はどのようになっているのか、訪ねてみました。
選挙前の第2回都議会定例会本会議最終日6月7日。議事堂2階にある都議会「議会図書館」をのぞいてみました。ドアを開けると、窓から光が差し込み、広々とした明るい室内、多数並んだ書棚が目に飛び込んできました。
まずは入館票に、利用日と住所および勤務地の区市町村を記入して、受付カウンターに提出しなくてはいけません。荷物は、貴重品以外はロッカーに預けました。カウンター奥の書庫には五輪関係の書籍が並んでいるのが見えます。
面積669平方メートル、閲覧用のテーブル12台や椅子がゆとりを持って配置されていて、ロビーのように落ち着いた雰囲気です。蔵書数は約9万5000冊。中身は、地方自治に関わる書籍など図書約4万冊、国や都の刊行物などの資料が約5万4000冊、国の刊行物などに付属していたCDおよびDVDが約1000枚あるそうです。蔵書数でみても、新宿区内の公立図書館計11カ所の蔵書数が約90万冊(都立図書館作成「都公立図書館調査2016年度」)ですから、そん色ありません。
どこにあるかわかりませんでしたが、議員には個室になった閲覧室10室(うち3室はパソコンを装備)が用意されているそうです。そして、議員の蔵書案内や調査などの各種業務のため、館長1人(都議会局調査部調査情報課調整担当課長が兼務)と職員3人、非常勤職員4人の計7人のスタッフが対応するとのこと。
ただ、一般利用者は、議員や各会派の政務調査担当職員、都職員に実施している貸し出しサービスがなく、コピーも都議会が作成した資料や館長が認めた書籍のみ可能といった制限があります。またここでは、都民が、政務活動費にかかる収支報告書および収支状況報告書などを閲覧することも可能です。
ふだんは土日年末年始、館内整理日以外の平日に開館していますが、係からは、本会議終了に合わせ、「あすからは蔵書点検で今月いっぱい閉館します」と説明があり、この日はほかの利用者も2人だけで閑散とした雰囲気でした。
町田市議会の図書室は市民利用で名前住所の記載必要なし
町田市議会の議会図書室。パソコンで1991年以降の本会議・委員会議事録が検索できます
ほかの議会図書室はどのような状況でしょうか。同研究所の「議会改革度調査2016」最新ランキングで都内最上位(回答があった全国1347 議会のうち16位)だった町田市議会を訪ねました。
建設常任委員会と、文教社会常任委員会が開かれていた6月15日。町田市議会の議会図書室は、本会議場などがある市庁舎3階にありました。広さは、小学校の教室と同じぐらいの印象です。行政関係、法令関係の資料を収めた書棚が複数あり、蔵書数は約5500冊、このうち、行政関係の一般書籍が約1800冊です。
部屋の中ほどには、会議机1台と、デスクトップパソコンとモニターが1セット。パソコンでは1991年分以降の本会議や委員会の議事録が検索でき、インターネットへの接続も可能になっているそうです。
同市議会事務局によると、一般市民が利用したい場合、開館している平日に3階の議会事務局に申し出れば、議員が使用中でなければ、図書室に案内してもらえるとのこと。都議会の議会図書館のように受付票に名前や住所を記入する必要はありません。
議会図書館は役目果たした?任期中政策型議員提案条例ゼロだった都議会
政策立案に必要な法律関係の書籍が並びます(町田市議会の議会図書室)
このように、法律で地方議会に設置が決められている議会図書室ですが、全国的には十分に整備されているとは言いがたい状況になっています。早稲田大学マニフェスト研究所「議会図書室アンケート2015」でも、議会図書室専用の部屋がある議会は、都道府県や政令市、東京23区の議会は9割程度ある一方、市議会では5割、町村議会にいたっては2割程度にとどまっています。
専用に整備されている都道府県議会の議会図書館でも、同じ「議会図書室アンケート2015」によれば、蔵書数は議員1人あたり平均368冊ですが、都の議会図書館は倍以上の議員1人あたり748冊と群を抜いています。
ただ、議員からの議会図書館蔵書案内や文献調査などの2016年度依頼件数は、238件。議会の質問などに活用されたそうですが、単純に議員1人あたり年2回弱という計算で頻繁に利用されているという数字ではありません。
町田市議会の場合はどうでしょう。議会事務局によると、2016年の議会図書室に対する議員からの調査要請件数は97件、1議員あたりの依頼数は年3件弱で、利用件数としてはどちらの議会も大きな違いはないようにみえます。
しかし、地方の議会図書室が議員の条例制定など政策立案支援という本来の機能を果たしたかみてみると、都議会の場合は、前回選挙後の2013年第3回定例会から、今回の選挙直前2017年第2回定例会までの4年間、政策型議員提案条例の成立はゼロ。対して、町田市議会の場合は2014年に1件制定しています。
また、早稲田大学マニフェスト研究所が「議会改革度調査2013」にまとめた過去10年分の「政策型議員提案条例制定ランキング」でも、町田市議会は5件制定した実績があり、全国市議会で3位に入りましたが、都議会は入っていません。
背景には、町田市議会は議員からの調査や情報収集を事務局内の調査法制係5人が担当、場合によっては市立図書館とも連携して、同館の司書に依頼するなど、手厚い体制が整っていることもあります。
町田市議会の吉田勉議長は「他自治体の情報など、インターネットだけでは入手ができない情報が得られる」と議会図書室の重要性を指摘。今後も「市民の方々と議論して、ともに条例を検討できるような場としても活用できれば」と話します。
都議会は任期中の4年間、知事提出議案965件(決算、諮問、人事、専決の案件のぞく。都議会ホームページ参考)のうち99.6%にあたる961件が原案可決でした。行政監視の面からも、国内地方議会最高レベルの設備を整えた都議会の議会図書館を本当に使いこなしているのか。都議選後は議会図書館のあり方にも注目です。
議会図書室は地域の重要な争点集約 今後は住民に開かれたものに
議会改革にくわしい山梨学院大学法学部・江藤俊昭教授の話
── 議会図書室は地方議会法に定められた必置の制度。それほど重要な位置づけにもかかわらず、官報などの書籍が置いたままだったり、「物置」的な状態となって、活用できていないケースも多い。小さな町村議会では、独立した議会図書室がなく、議会の応接室内に本箱があるような状態だ。
たとえば、呉市の議会図書室は、司書を嘱託で採用しているが、司書のいる公立図書館と連携、活用についても今後、模索する必要がある。もう一つ、県政資料室や市政資料室には同じものが入っているのだから、合体して、市民が閲覧しやすい一階に置くというように、自治体の重要書類を1カ所に集め、効率化を図ることが大切なことだ。
議会図書室は、議員の監視能力と政策提言能力を高める上で大事なものだが、議事録や視察報告書、陳情・誓願書は、地域の現在および今後の重要な争点が集約されているので、議員だけではなく、地域住民に開かれた図書室を作っていかねばならないことを強調したい。開かれた議会における議会図書室はこういう位置付けだ。
(取材・文:具志堅浩二)
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