<西日本新聞より>
政務活動費の不自然な支出を追及された兵庫県議の「号泣」や東京都議会での女性議員に対する「セクハラやじ」…。最近、地方議会議員に対して有権者の厳しい視線が注がれるような出来事が続いている。全国で議員が絡んだ不祥事も相次ぐ。品位や資質が問われているのはもちろん、不要論すら飛び出しかねない状況の中で、立て直しが急務の地方議会。何が求められ、どう変わる必要があるのか。佐賀県伊万里市議の盛泰子氏と九州大大学院法学研究院教授の出水薫氏に聞いた。
◆議論して決める風土に
佐賀県伊万里市議・盛 泰子氏
‐地方議員の相次ぐ不祥事から、普遍的な課題が読み取れないか。
「一義的には議員個人の問題だが、議会全体の問題をはらんでいる。例えば、発言の邪魔をするヤジは議長がタイムリーな注意で収めることができた。政務活動費は使途報告書の提出先が議長なので、そのリーダーシップによって改善できる要素も多い。今回の特定の議員による不始末から得られる教訓は大いにある」
‐議会改革が広がっているが、真っ先に取り組むべきことは何か。
「しっかりと議論をした上で、議会の意思決定をすることだと思う。先進的な議会を除く多くの議会は、執行部に質問して答弁させることを議論と勘違いしている。そうではなく、議案や地域の課題について、議員間で、場合によっては市民を交えて自由に意見を耕し合い、結論を出す。この過程を丁寧に行うと、市民への説明に説得力が増す」
‐議会が議論しない現状は大きな問題だ。
「北海道ニセコ町の逢坂誠二元町長が、民主主義の発展を阻害するものの一つに『議論を悪とする風潮』を挙げていた。PTAや自治会の総会でも、提案されたことに『異論がある』とは言いにくい。議会も似ている。一つの意見に対して違う意見も出し合い、それを耕した後に決定する議会風土になるといい」
‐市民は、議会が何をしているのか分からない。それも議会不信の理由では。
「議員個人が身近な人たちと話をすることはあっても、議会として不特定多数の市民と向き合う場がなかった。議会報告会をする議会が増えたが、審議結果を報告するばかりでなく、普段から市民と意見交換する場にしたい。チーム議会で市民の声を集め、しっかり議員間で討議をして、議会として執行部に政策提言したことを実現させる。その姿を見てもらうことが、信頼回復への第一歩になる」
‐議長のあり方については、どう考えているのか。
「地方自治は首長と議会の二元代表制。首長が4年間務めるのに、もう一方の代表である議長が1年、2年で交代しては議会の力を自ら弱めかねない。議長の選出過程の透明化と短期交代の見直しを急ぎたい」
‐なぜ議会は必要か、と問われたらどう答えるか。
「暴走する首長が出たとき、真っ先に止めることができるのは議会。また、1人だけ選ばれる首長に対して、議会はさまざまな人がいるので、より多くの民意を吸収することができる。そこに議会の価値がある」
‐議会の人材が偏っているようにみえる。
「老若男女のうち『老』と『男』の議員が多く、社会の縮図になっていない。地盤や看板の無い女性や若い人を増やす必要があるので、議員定数を減らして入り口を狭めるのは疑問。少数精鋭の議会は理想だが、難しいのではないか」
「議員報酬も減らす傾向にある。現職の立場では言いづらいが、ある程度の生活が保障できる金額でないと、ほかに仕事を持っている人やリタイアした人ばかりの議会になりかねない。若い人や一家を支える人は選挙に出づらい」
‐有権者に身近な議会になるために、議員選挙も変わる必要があるのでは。
「候補者は有権者に選ぶ材料、つまり政策を示すべきだ。地縁や血縁でなく、政策で選ばれるようにしたい。その情報が広く提供できるネット選挙に期待しているが、現状で大事なのは自治体が発行する選挙公報。選挙期間中に、議員候補が有権者に主張を届けられる唯一の文書だ。有権者は候補の考えに触れて一票を行使してほしい」
(聞き手は前田隆夫)
▼もり・やすこ 1955年生まれ、東京都出身。主婦として、佐賀県伊万里市の図書館づくりの市民運動に関わる。93年の市議補選で初当選。当選6回。議会運営委員会委員長などを務めた。
◆有権者も意識変えよう
九州大大学院法学研究院教授・出水 薫氏
‐「号泣議員」「セクハラやじ」などで、地方議会が話題になっているが。
「議会と有権者のどちらにも不幸な状態だ。結局、人々の関心は、興味本位の出来事でしか議会に向かない。本来、『政治とカネ』やジェンダーなどの問題を議論しないといけないはずだが、昨今の現象でしか見てもらえないことを議会がどう考えるか、というアプローチが重要だ。ただ、議員個人に注目しすぎとも言え、もっと議会全体としての水準や質を問わなければならない」
‐議会への有権者の諦めや不信感があるようだ。
「諦めがあるなら、まだ救いがある。不信感を抱くほど何かを期待しているわけでもない。有権者は、はなから無駄なものとしか思っていないのではないか。何かを期待するには、こうあってほしいという理想像が必要だが、それが持てないのは深刻だ。議会にどういう働き方をしてほしいかというイメージがない。議員を選ぶ際に、所属政党ぐらいしか基準がなく、有権者が関係する団体などからお願いされて、さして大事な仕事とも意識せずに投票しているのが現状だろう」
‐議員側には、選挙で選ばれ、住民の声を代弁している意識があるのでは。
「そんなはずはないだろう。そもそも議員の年齢や性別、職業などが偏っている。地方自治法には、議案審査を学識者などに委ねることができる規定があり、多様な住民のニーズをくみ取るために議会がブレーンを持つ仕組みがある。だが、それを十分に使いこなしている議会はほとんどない。子どもを産むことができない男性が、出産、育児のことをどこまで分かるだろうか。分かる人材に審議過程に加わってもらうのは当然で、でなければ『議会はまともに審議し、判断するつもりがないのでは』と批判されても仕方がない」
‐議会の役割とは何か。
「多様な民意を吸い上げ政策を議論し、有権者への説明責任を果たす。そしてそれを首長に実現させるように尽力しなければならない。現場の実態を踏まえ、さまざまな問題を住民とともに考え、何をやって何をやらないかを決めなければならない時代に入っている。優先順位をどうつけたかを住民に知らせるのが議会の存在意義だ」
「高齢者介護や子育てなど地域できめ細かに対応すべき政策課題が増えた。国が地方を手足として使っていた時代から、地元に裁量権を与えるように地方分権一括法や機関委任事務の廃止など制度変革が進んだ。時代の潮目が変わり、地域が変わらないといけないと有権者が気付き、行政も動きだしたが、議会や議員は気付いていない。『これではいけない』と意識する議員は増えつつあるが、圧倒的多数ではない。取り残され、最も遅れているのが議会といえる。旧態依然の働き方でも落選しないことが一番の問題だ」
‐改革に何が必要か。
「私たち自身が、意識して議会に何かを求めないといけない。旧来型の組織戦や利益誘導型選挙ではなく、当選者に発信力があれば、有権者も共鳴する。『議会ってとんでもないところ』と思ってスイッチが入れば、既存型ではない人材との入れ替えも次第に進む。ただ、時間がかかるし、地域差は出てくるだろう」
「現状では、議会内部からの変化は期待しにくい。学識者や議員、行政関係者などのうち、議会の変革の重要性を認識している人々が声を上げていく必要がある。その上で有権者が、議会にどんな仕事をしてほしいか考えるようになれば、ようやく議会は変わるための入り口に立つだろう」
(聞き手は高野靖之)
▼いずみ・かおる 1964年、北九州市出身。九州大大学院法学研究科博士課程修了。九州大助手、助教授などを経て現職。専門は政治学、韓国現代政治、地域政治など。
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◆記者メモ
議会の役割とは何か。北海道栗山町議会は全国で初めて制定(2006年5月)した議会基本条例に明快に記した。その一部を引用する。
「議会は自治体事務の立案、決定、執行、評価における論点、争点を広く町民に明らかにする責務を有している。自由かっ達な討議をとおして、これら論点、争点を発見、公開することは討論の広場である議会の第一の使命である」
多くの議会ができていないか、不十分なことばかりではないか。この数年、議会改革がブームのようになっているが、議員の定数や報酬を減らすのが改革ではない。
議会の役割とは何か。すべての議員が共有して議会の現状と比べれば、やるべき改革はおのずと分かるはずだ。 (前田隆夫)
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