<議員NAVIより>
1 マニフェスト大賞はこうして始まった
アカデミー賞にしたい
マニフェストとは、「数値目標などで『はっきり示す』公約」を意味している。このマニフェストを地方議員の選挙にも広げる(1)ことで、地盤・看板・カバンが必要といわれる地方議員の旧態依然とした選挙を政策本位で選ぶ選挙に変え、地方から政治改革を進めようと、2005年5月22日にローカル・マニフェスト推進地方議員連盟(以下「LM地議連」という)が結成された。
マニフェストという言葉は、LM地議連の顧問でもある北川正恭早稲田大学名誉教授(元三重県知事)が提唱し国政選挙でも用いられたことから、2003年の流行語大賞に選ばれるなど世間からの関心は高く、LM地議連の発会式には約500名が参加するなど地方議員からの関心も高かった。
そのLM地議連をどのように運営していくかを協議する運営委員会の場で、「地方議会・議員を表彰することをしたい。ゆくゆくはアカデミー賞のようになることを目指す『マニフェスト大賞』を実施したい」と伊藤悠さん(当時は都議会議員)から提案があった。そこからマニフェスト大賞はスタートした。
当時は、マニフェストは注目されてはいたものの、住民の政治不信は強く、特に地方政治がマスコミに登場するのは地方議会や地方議員の不祥事のときばかりで、「地方議会や地方議員は必要ない」など、議会に対する評価はかなり低い状況にあった。「地方議員といえば何をしているか分からない、支援者への利益誘導ばかりをしている」と多くの人が思っていたに違いない。
そのような状況でマニフェスト大賞をスタートすることは、「ローカル・マニフェストを掲げることや優れた政策を提案し、それらを実現している議会や議員を表彰することで、光を当て、さらに意欲を高め、結果として政治改革を進めよう、表彰により政治改革を目指そう」との目的を持つ提案だったのである。
また、マニフェスト大賞を受賞した政策を他の自治体でも実施することで、結果として日本全体をよくしようとのねらいもあった。最近では“TPP”(徹底的にパクッってパクる)とも運営委員会では使われるが、よい政治の競争、善政競争を後押しできる賞にすることも目的となっている。そのために、優れた政策を集めた資料集となる冊子を毎年制作している。
本当にできるのか?
この提案があった運営委員会に私も参加していたので、「本当にできるのか?」の議論があったことをよく覚えている。“表彰することで政治をよくしたい、褒めて育てたい”との思いは理解できるが、その政策が本当に応募した議員のものなのか、誰かのものマネであったり行政がやろうとしていることを質問して自らの手柄にする場合にも表彰できるのか、また本当によい政策か判断できるのか、表彰してしまって大丈夫だろうかなどの疑問が出されていたからだ。
何よりも、応募する人がどれだけいるのか、不安が多かった。
このときは、「世間に知られることになれば、偽りの政策では応募できないだろう。議事録や行政に確認すれば、すぐに分かることだ。調べる手間はかかるが、まずはやってみよう」との合意になった。
ほかにも実行する費用をどうするかの課題も残されていた。全国の地方議会や地方議員への周知・応募・審査さらには表彰式も行うとなれば、それなりの費用が発生する。LM地議連は約500名の会員がいる組織だが、資金が豊富にあるわけではなかった。
そのため、まずは協賛してくださる事業者を会員の議員自らが探して資金を調達することになった。財源もはっきり示すのがマニフェストだが、マニフェスト大賞の財源探しも行うことになり、結果がどうなるか見えない中でスタートしたのが第1回目のマニフェスト大賞だった。
3 縁の下の力持ち、LM地議連の働き
手づくりの授賞式
マニフェスト大賞は、受賞者を決める審査以外をLM地議連の運営委員で組織するマニフェスト大賞実行委員会が担っている。第1回目から続く協賛金の募集から応募者集めに加え、授賞式の運営も行っている。今年からは、授賞式の技術的なことも含めて司会やディレクション、受賞者をアテンドしたり、記念撮影の言葉をかけたりすることも議員が自ら中心となり行った。“手づくり”といえるような式でもある。
これは費用面を抑える意味もあるが、議員が自ら行うことで、他人任せではなく自らのイベントであり、自らの力で地方政治を変えていく意気込みを表している、ということにしているが、それはそれで時間がとられることもあり、ひと苦労ともいえる。苦労をともにした分、実行委員同士の結束が高まっているのはマニフェスト大賞のひとつの効果といえそうだ。
マニフェスト大賞の課題
マニフェスト大賞の課題は、もちろんある。「毎年増えていく応募数をいったいどこまで伸ばせばいいのか」が、その最たるものだ。
当初は全国で約1,800の自治体があるから、1自治体で優れた政策を1つと考えれば、1,800あれば十分と安易に考えたこともあった。だが、2,000を超えてしまうと、そうともいっていられない。毎年、“過去最高の応募数”という枕詞で授賞式が始まることを考えると、どこまで伸ばせばいいのかが最大の課題といえよう。
現在の応募状況としては、自ら応募される方も多いが、運営委員や協賛している早稲田大学マニフェスト研究所が優れた政策などを人脈や各種調査から探し出し、応募してもらうよう連絡してというケースも少なくない。また毎年、応募は締切りである8月末に集中してしまうことから、“夏休みの宿題状態”ともいわれている。年間を通じての応募ができるようになるか、この実現可能性は大きな課題である。
一方でマニフェスト大賞が世に広がることにより、負の効果も出ている。それは、「議会改革で有名なあの議会と比較されても、受賞できるわけがない」、「どうせ落選するのだから応募はしない」といった声をよく聞くことだ。応募へのハードルが上がってしまったことでの弊害だ。
マニフェスト大賞の水準が上がることはうれしいことでもあるのだが、よい政策を競い合うこと、応募することで自らの活動を振り返ることにつながっていることを考えると、上記のような声も今後のマニフェスト大賞の課題だろう。これまでもそうであったが、これからも、この対応を考えなくてはならない。
4 次の10年に向けて
マニフェスト型で実行委員長を選出
2015年で10年目を迎え、質量とも大幅に拡大してきたマニフェスト大賞だが、運営方法に大きな変化があった。それは、実行委員長を選挙で選ぶことになったことだ。
LM地議連の運営委員の中から、やってみたい人が立候補し、どのように運営をするかのマニフェストを示し、運営委員が投票して選ぶ、いわば選挙方式で決めることになった。マニフェスト大賞の実行委員会がマニフェスト型に進化したことになる。
本来は全国組織であるため、全国で演説会を行い投票すればいいのかもしれないが、時間的な制約もあることから、マニフェストをプレゼンする様子をネットで配信し、投票した結果、子籠敏人実行委員長(あきる野市議会議員)、山中啓之副実行委員長(松戸市議会議員)、鈴木綾子副実行委員長(江東区議会議員)、草間剛副実行委員長(横浜市会議員)が選出された。
このことは、委員長を担える人材の裾野が広がっているともいえる。自ら手を挙げて責任者に就き運営を行うことは、今後のさらなるパワーアップにつながっていくに違いない。
プレゼン研修会の意義
本稿では書き切れないような手間と時間をかけて実現しているのがマニフェスト大賞だ。2015年で10回目を迎え今後をどうすべきだろうか。
マニフェスト大賞には、今回書かせていただいた課題を含め実行委員会の中で様々な意見が出ている。それぞれの解決策を考えることは、LM地議連のあり方にもつながるため、毎年、議論が尽きない状況で、結果としてまとめ切れていないのが実情だ。
だが、ひとつの方向性として大きな意義を持つ動きが出てきている。それは、マニフェスト大賞授賞式の前日に行う「プレゼン研修会」だ。
マニフェスト大賞受賞者が自らの政策を会場参加者へプレゼンテーションを行い、書面では分かりにくいことを、ビジュアルや言葉でどのように伝えるかを競い合う内容になっている。参加者からは、いろいろなジャンルの政策を一度に聞くことができることや、政策のエッセンスがすぐに分かると好評で、授賞式に負けないほどの注目を集めるようになった。
受賞者によるプレゼンの時間は3分間。時間が短すぎるとの意見はあるが、多くの受賞者がプレゼンできるための時間配分であるというだけではない。民間では、数十秒で内容を伝えないとプロジェクトは動かせない、テレビのニュースは短時間で中身を伝えているなどの意見もあり、何よりも時間を長くすれば中身がよくなるものでもないとの考えから、この3分間は考えられている。
これは、会議で要点をA4判1枚にまとめるのと同じ考えだ。何が問題で、どのように解決するかをまとめる力が必要になり、関心の低い人へも伝える力が必要となる。短くまとめることで、どこに本質があるのかを知ることにもつながっている。
プレゼン研修会では、全てのプレゼンの中から最も印象に残ったものを参加者がその日に投票し上位3名を表彰している。この結果、マニフェスト大賞の最優秀賞とは別の人が受賞していることは非常に興味深い。優れた政策が優秀賞として毎年選ばれているが、その政策への光の当て方次第で、より意味が出てくるのかもしれない。今後に大きな可能性を持つ研修会だろう。
11回目がすでにスタート
プレゼン研修会が好評であるため、授賞式でも同じようにできないか、応募がより手軽にできないかなど今後のマニフェスト大賞についての議論は、実行委員会では尽きていない。
しかし、当初の目的のように、より多くの人に知られ、アカデミー賞のようになれるかの具体策は、現在のところ見えていないのが実情だ。
その状況でも現在は11回目をどのようにしてすべきかの協議がすでに始まっている。2016年夏には11回目のマニフェスト大賞応募が始まり、授賞式は11月11日(金)にアカデミーヒルズで行い、前日にはプレゼン研修会を行うということもすでに予定されている。来年度への動きが始まっているのだ。
地方政治、地方議会を大きく変えてきたマニフェスト大賞。今後もこれを続けていくことで政治改革の裾野を広げたい。そして、その結果が日本の政治を変えていくと信じている。
今後もご期待ください。そして、応募もお願いします。
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