<朝日新聞より>
北海道東部の十勝平野にある小さな町・芽室(めむろ)町。人口2万人足らずの農業の町が、議会改革で脚光を浴びる。その中身とは――。
町は帯広市の西隣にあり、スイートコーンの生産量は全国一。日高山脈を望む市街地を離れると雄大な農村風景が広がり、全長9・2キロに及ぶ国内最長の防風林もある。
町議会はログイン前の続き定数16。ここ5年で町民を巻き込みながら次々と改革を打ち出し、町長との対決もいとわない。首長と並び立つ「二元代表制」として議会の真の役割を模索する。
昨年11月、芽室町役場で町民が主体となった「議会改革諮問会議」があった。この日は議会へのタブレット端末の導入について時間を割いた。
「タブレットを使わないと力を発揮できないというのはいかがか」「町民にメリットがあるかがポイント」。議論は4時間続き、午後11時過ぎに「成果を検証し、その結果の公表を求める」との付帯意見をつけて議長の諮問内容を了承。終了後、会長の蘆田(あしだ)千秋さん(47)は「町民目線で議会に関われる。我々の責任もすごく重い」と語った。
諮問会議は2013年6月に設置。経営者や団体役員、元町職員ら5人が任期の2年間、議員報酬や常任委員会のあり方をめぐって議論した。14年6月には「委員会は3から2に削減」といった答申をまとめ、答申の内容は現在までにおおむね実行された。現在のメンバーは2期目だ。
芽室町議会の改革の二大柱はこの「町民参加」と「公開」だ。
11年12月議会に議案ごとの各議員の賛否を広報誌やネットで公開したことに始まり、翌年からは町民10人に「議会モニター」を委嘱。議会を傍聴し、議論のあり方や望む政策などを提案してもらっている。諮問会議とともに、議会に「もの申す」役割を担う。
町民との意見交換を兼ねた議会報告も工夫をこらす。町内の老人クラブや農協、商工会単位で参加者を募り、14年度は13会場で町民の2%にあたる計383人が出席した。
早稲田大マニフェスト研究所による全国の議会改革度ランキングで芽室町議会は14年度全国1位に。全国から視察が相次いでいる。
改革のきっかけは町長選と町議選の投票率が下がったことだった。無投票を挟み、ここ5回の町長選は9割台から7割台に、町議選も8割台から6割台へと落ち込んだ。
危機感を抱いたのが11年5月に就任した広瀬重雄議長(58)と、西科(にしな)純・議会事務局長(52)だった。2人は青年会議所の活動から十数年にわたる付き合いがあった。「住民の関心が低くなれば役所のやりたい放題になりかねない。行政に依存する『お任せ民主主義』はダメだ」
当初は議員からも「そこまでやるのか」との不満が漏れた。しかし、町民の評判は上々で次第に消えたという。
芽室町議会が改革の先に目指すのは、住民の声を踏まえ、町議会としての政策を定期的に提案するスタイルだ。
全国的に自治体や議会の改革の取り組みはあるが、選挙や人事異動でしぼむことも珍しくない。多くの町民が関わることで、改革が後退しない仕組みにすることを意識。やがては議員のなり手を確保するという思惑もある。広瀬氏は「町民に『自分も関わりたい』という思いを醸成していきたい」と話す。
町議会は、議案を粛々と可決していくだけの「追認議会」からの脱却も図る。
町は昨年9月、消防団の運営を町に移管する条例案を提案。議会は「消防団との協議が足りない」として、身分に関わる条文を削除する修正案を出して可決した。宮西義憲町長(70)は拒否権にあたる「再議」を求めたが、議会はこれを否決。最終的に、町長も納得できる内容の新たな条例を議員提案で定める方向で決着する見通しになった。
町の原案を可決しなかった例はこの3年で6件。町長と副町長の給与減額案に、両氏の期末手当削減も加える議員提案で修正可決したこともある。広瀬氏は「政策論争の結果。議会が活発になったことの表れでもある」と言う。
ただ、町側は複雑のようだ。宮西町長は「議会との政策論争は当たり前」としながら、「『町と議会はコミュニケーションが足りない』『対立ばかりしていても』という声も聞く」と話す。
■改革派知事・分権法…2000年代に本格化
地方議会の改革は2000年代に本格化した。
一つの節目は三重県の北川正恭氏や鳥取県の片山善博氏ら「改革派知事」の登場だった。議会との事前調整をせず、議会側も是々非々で臨む姿勢に変化。00年の地方分権一括法の施行で、首長や議員の地方分権に対する意識が高まったことも背景にはあった。
06年に北海道栗山町議会が全国初の議会基本条例を制定したことも拍車をかけた。議論を活性化する議会運営のルールを定めたもので、追随する議会が続出。自治体議会改革フォーラム(東京)によると、昨年9月時点で全国の約4割、701自治体が制定した。
早大マニフェスト研の中村健事務局長は、芽室町議会が全国的な改革の流れをすべて包含する「改革のデパート」と評価。改革のロードマップを立てて公表し、「何のための改革か」を明確にしていることが特性だという。
(若松聡)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12152440.html
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