塩尻市は、早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会(以下部会、人マネという)に2013年から参加し、今年で3年目となります。私は入庁23年目、係長となって4年目となる2014年に塩尻市2期生としてベーシックコースに、そして今年は運営委員として参加しています。
参加のきっかけは、「しおラボ」(塩尻市若手中堅職員意見交換会 ※1)で、塩尻市の1期生として部会に参加した鳥羽部長(当時、人事課長)の研修報告を聞いたことです。そこで、組織変革を促す施策を実際に提言し、さらには実行に移すという部会のスタイルに強い興味を持ち、自ら参加を申し出ました。
システムの導入だけでは組織は変革しない
「システムを入れただけでは、組織は変わらない。職員の意識が変わっていないのに、業務改善を行っても効果がない。内発的な話し合いにより自らが変わることが先である」
第1回目の研究会で、北川正恭先生からこのような趣旨のお話がありました。組織に本当の変化をもたらすためには、形式的な要件整備だけではなく、内発的な気づきを促す「対話」を重ねながら、自らが変わることが求められるということです。
市役所には多くの計画・指針・マニュアルなどがありますが、その中には、組織に浸透しているとは言い難いものが実際に存在しています。その要因として、職員間の対話不足により、職員が心底「腹落ち」できず、「やらされ感」となっているためではないかと考えられます。
この部会では随所に、参加者間あるいは同じ組織の職員間での対話を求められます。物事を「理解した」から「共有・共感した」に発展させるには、そのプロセスとして「対話」が不可欠であるというメッセージのように感じました。
部会で「塩尻市版人材マネジメント部会」を施策提案
2014年に参加した3人は、組織の現状を把握するためにまず全職員対象のアンケートを実施しました。アンケートは、職場内のコミュニケーション(対話)の現状などに対する設問が中心です。その回答から「管理職とその他の職員のコミュニケーション(対話)の意識に差があり、同じ係や課でのコミュニケーション(対話)も不足している実態がある」こと、その結果として「組織としての一体感に欠けている現状」が見えてきました。そこで、私たちは、「双方向での理解を深めるために対話の場を組織内にどう作るか」を意識しながら、施策を考えました。
そうして、私たちが考え出した施策が「塩尻市版人材マネジメント部会」です。この施策を提案した目的は、「『塩尻市役所経営理念』(※2)を実践する職員・組織を目指すため、課長職の組織マネジメント・人材マネジメント能力の向上を図る」というものです。対象者はすべての課などの長で66人、回数は 2グループに分けての全4回で1回3時間、開催期間は2015年4月~10月の半年としました。講師はすべて出馬幹也・人マネ部会長です。
ほかにも施策提案にあたって、私たちが意識した点が2つあります。
1つは、「ターゲットを課長職とする」こと。やはり、組織に変革をもたらすには、課長の力が不可欠であり、課長の意識改革が組織変革の一番の近道ではないかと考えたからです。
もう1つは、前年度参加者の施策提言により生まれた「塩尻市役所経営理念」の実現を目指すことです。これは、夏期合宿で受けた幹事団からの指摘により、「これまでの施策の検証とそのシナリオの継続」が非常に大切であることに気づいたからです。
部会では出馬部会長が「課長職が人材マネジメントの責任者」であることを繰り返し強調されます。しかし、実際に課長職を施策の対象者とすると「当事者からの反発があるのでは」「人事部門からも理解されないのでは」などと勝手に思い込んでしまい、そこで尻込みしてしまいがちです。施策提案にあたっては、そこに1つの大きなハードルがあるのではないかと思います。塩尻市の場合は、私以外の参加者のうち1人が人事課経験者の課長、もう1人が人事課に新設された人材育成係の係長であったために、そのハードルを比較的容易に乗り越えられたように思います。2人の先輩の知識と経験、そしてハードルを越えて「やり切ろう」という覚悟が、とても心強く感じられました。
こうして「塩尻市版人材マネジメント部会」は、塩尻市役所の職員研修の一環として公式に運用が始まり、8月現在、全4回のうち3回の開催が終わったところです。今後は、塩尻市版部会のフォローを含め、効果の検証や新たな課題を洗い出し、さらに次の施策につなげていきたいと考えています。
覚悟を決めよう~自分に足りなかったもの~
さて、かくいう私はどうだったのでしょうか。提案施策に対してどこまで深く腹落ちして取り組めていたのか。表面上の理解だけで行動していなかったか。自らの問いかけに対し歯切れよく答えることができません。なぜなら、ありたい姿に到達するまでのシナリオが明確に描ききれていないためボンヤリしている部分があるからです。
部会の大きな特徴に、ダイアログ(対話)形式を重視していることが挙げられます。部会で佐藤淳幹事にご紹介いただいた『ダイアローグ 対話する組織』(中原淳、長岡健著)には、「『社会構成主義』と呼ばれる哲学的立場からは、コミュニケーションによって、物事の意味づけがなされる。その意味づけによって、人々の行動は方向づけられていく」と対話の意義が書かれていました。言い換えれば、「対話」が「行動」のきっかけになると捉えることができます。
当然ですが、対話は相手があって初めて成立します。自分以外の誰かと対話することにより、共感を生み、そして内発的な気づきを得て「行動」に繋がる。さらに対話を重ね相手から共感を得ることにより、相手を巻き込める。それを繰り返すことにより、少しずつ職員の意識が転換し、組織がありたい姿に近づいていく。ダイアログには、こうした循環を生む要素が秘められていると思います。
しかし、ダイアログは、組織のありたい姿を目指すための1つの手段であって、ダイアログを取り入れるだけでこのような好循環が簡単に作れるわけではありません。ダイアログで共感を得るためには、なぜダイアログをするのか、どのような変革をいつまでに求めるのか、そのビジョンがはっきり見えているのかについて、自分が深く「腹落ち」している必要があります。巻き込みたい側に明確なビジョンや熱意がなければ、巻き込まれる側には伝わるわけがありません。結果的に「対話できて楽しかった」、「対話っていいね」だけで終わってしまいます。このことは、ダイアログに限らず、すべての提案施策に共通している事項ではないかと思います。
このように改めて振り返ってみると、これまで「自分ごと」で考えて取り組んできたつもりでしたが、そこに「自分がやり遂げてやる」という“覚悟”が絶対的に不足していることを痛感しました。結局、「やれるか、やれないか」は、「自分ごと」でやり切る覚悟を決めることが肝心だと痛切に感じています。
部会に2年間参加したことを機に、ありたい姿の実現と変革に向けた取り組みに「自分ごと」として、本気で関わる覚悟を決めます。そして、行動に向けては、明確なビジョンを持ち、自信を持って主張できるよう、それぞれの施策を深く掘り下げられて考える習慣を身に着けます。
塩尻市役所が経営理念を実現する職員で構成される組織となり、今日より少しでも良くなる地域を目指して、長い道のりを楽しみを見出しながら歩みを進めていきます。
◇ ◇
(※1)しおラボ
2011年1月からスタートした職員有志による塩尻市若手中堅職員意見交換会。毎月1回、午後6時から午後9時までの間に行われ、これまでに計61回開催されている。しおラボの基本的なスタイルは、プレゼンとワールドカフェによる対話で、毎回、最後に参加者全員が、「明日からのプロミス」として、自身の明日から行動を一つ宣言する。この宣言は、しおラボでの対話を通して、昨日までの自分とは違う自分へ、一歩前に踏み出し行動することを強く意識づけるために行っている。
(※2)塩尻市経営理念:塩尻市の部会1期生が、施策として提案し実現した。
人を地域を塩尻市を愛し、この街の明日が
今日より少しでも良くなるよう、それぞれの立場で努めよう。
市民から貰う「ありがとう」の言葉が私たちの勲章。
一年間に貰う勲章の数が成功体験であり、自らの人生を豊かにしてくれる。
その繰り返しこそ、市民とともに築く郷土の未来となる。
塩尻市長 小口利幸
塩尻市ホームページ
■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
http://seijiyama.jp/article/columns/jinmane/jin20150902.html
0 件のコメント:
コメントを投稿