【にっぽん再構築・地方議会が危ない(1)】
舛添知事の暴走なぜ止めぬ 首長と一体化でチェック機能なし 不祥事頻発でも高額報酬、政活費乱用…
「都議会は何をやってるんだ」
3月、東京都の舛添要一知事が韓国人学校の増設に向け、新宿区にある約6千平方メートルの都有地を韓国政府に貸与する方針を打ち出すと、ある都議の事務所に苦情の電話が相次いだ。
保育所や介護施設など都内で不足する施設はいくらでもある。「なぜ都民のために使わず、韓国人学校を優先するのか」と怒る都民の思いは切実だ。
折しも3月議会の会期中だった。一問一答の質疑を行う予算特別委など、発言の機会は十分あったが、同問題について各会派とも“沈黙”した。
この都議は「都有地の貸与については議会の承認はいらず、議会案件になっていない。地元から陳情や請願でもない限り、積極的には動けない」と語るが、都庁には1500件を超す抗議電話が殺到した(12日現在)。舛添知事は、都有地の貸与について「都民の理解が得られると思うか」とする報道陣の問いかけに、こううそぶいた。
「都民って誰ですか。都民は1350万人いる。どんな政策をやっても批判がある。さっきの予算じゃないが、私の支持者が9割いて、1割反対。1割でも135万人だ」
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3月25日の都議会閉会日。「知事提案のすべての議案に、賛成の立場から討論を行います」
本会議場に勢いのいい声が響いた。38日間の定例会は結局、共産を除く全会派が賛同し、舛添知事が提出した全議案を原案通り可決して閉会した。
原案可決率100%-。知事へのチェック機能を放棄したかのような異常事態が都議会で少なくとも3年以上続いている。
ある自民党の都議は「根回しは終わっている。本会議は単なるセレモニーだ」という。
だが、都政に詳しい中央大の佐々木信夫教授(行政学)は「議会は知事の“暴走”をいかに修正し、足りないところを補うかに価値がある。双方が競い合うところに意味があるのに、知事と一体化し、オール与党化するならば意味がない」と指摘する。
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舛添知事の高額海外出張費も3月議会中、すでに問題視されていた。自民党の宇田川聡史幹事長が代表質問で「海外出張より前に、なすべきことがあるのではないか」とくぎを刺し、公明も「知事の都市外交を高く評価している」としながら、経費の縮減と内訳公開を求める文書を知事に提出していた。
だが、知事側は内訳開示には応じず、突っ込み不足は明らかだった。3月定例会がこのように無風で終わるのを見届けると、知事は4月12日、15人の随行職員を従え、ファーストクラスで訪米の旅に出た。
公用車による別荘通い、政治資金による「家族旅行費」支出…その後発覚した舛添知事の疑惑の数々に、都庁には1万件超の批判が集まる。が、都議会最大の自民党内には今も、知事批判を強めることが得策かどうかを見極めたいとする「慎重論」が根強い。
「まずは知事が説明責任を」。ある自民都議は様子見を決め込んだ。
「収支報告書を作成いたしましたときの記憶がございませず、お答えすることができませんでした」。4月25日、神戸地裁。論告求刑公判に臨んだ元兵庫県議、野々村竜太郎被告(49)は約913万円の政務活動費(政活費)をだまし取ったとされる詐欺罪について、独特の言い回しで弁明した。
“号泣”した前代未聞の記者会見は平成26年7月。「政活費の存在や在り方を問題提起することになった」と野々村被告の弁護側が今も強調するように、全国で政活費乱用の実態が次々と明らかになっている。
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政活費による切手の大量購入が問題となったのが千葉県市川市議会だ。26年実施の住民監査請求の結果、25年度に3会派が切手代として計約270万円を政活費から支出していたことが判明。「切手は換金率が高く、不正の温床となる可能性が否定できない」と監査委員は指摘した。
市も公認会計士による外部監査で、23~25年度に各会派に支出された切手購入費などを調査し、2千万円超の不適切支出が判明した。指摘を受けた各会派は自主返納したものの、小泉文人市議(43)ら2人は返納を拒否。昨年6月、市議会は2人を「悪質」として調査特別委員会(百条委員会)設置を決定した。
小泉市議らはその後返納したが、昨年11月の百条委では、政活費の精算をめぐる小泉市議の発言が別の市議により明らかにされた。
「先輩、そんな面倒くさいことをすることないですよ。切手を買って換金すれば済んじゃいますし、みんなやってますよ」
議会は4月、政活費の運用手引を改正。切手は支出できない経費となった。
議会への出席は議員の最低限の義務のはずだ。
「孫をグローバルな人間に育成するため、半年ほど前から家族で行くことを計画していた」。千葉県袖ケ浦市議会で昨年4月中旬、篠崎龍夫市議(70)が市議会の2つの特別委員会を欠席。孫との私的な海外旅行という釈明が周囲をあきれさせた。4月中旬、篠崎市議は産経新聞の取材に、「市側が議員の都合をもっとちゃんと聞いて、スケジューリング(日程調整)すべきだった」と開き直った。個人旅行は議事日程よりも優先されるべき案件なのか。
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栃木県小山市議会は、女性市職員へのセクハラ行為があったとして、角田良博副議長(66)に対する辞職勧告決議を27年9月と11月、今年2月と3回も可決した。決議に法的拘束力はなく、疑惑を否定する角田氏は辞職せず、現在も副議長。女性職員との言い分も対立し、裁判で係争中だ。角田氏は「事実でもないのに、何回も決議案を出すのは無駄だ」と批判するが、副議長の“居直り”に議会は振り回されている。
政策ではなく議員の不祥事が議題をさらう異常事態が各地の議会で続く。
日大の岩井奉(とも)信(あき)教授(政治学)は「国会と違い、地方は首長の権限が強い一方で議会の権限は弱い」と指摘。「その結果、有権者の関心は低く、どんな人が議員なのか、チェックも甘くなり、モラルが弛緩しているのでは」と話した。
報酬は兼業・兼職が認められながら世界最高水準。欧米はボランティア、手当のみが主流だ。中央大の佐々木信夫教授は語る。「議会関連の行事は都道府県で年間100日程度。夜の会合などの(集票)活動もあるだろうが、それらを全て月ぎめで払う必要は本来ない」
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最高峰が都議である。報酬は月額102万円。ボーナスを含めた年収は1706万3462円(27年度)。議会に出席すれば1日1万~1万2千円の“日当”も支給される。
政活費も全国一の1人当たり月60万円。使途にも疑問符が付く。「会議費」の名目で高級すきやき店の弁当代を支払ったり、意見交換名目の「会費」の大半を新年会費に回し、1日に6件はしごしたり。足を骨折した都議が年間約840回タクシーを利用し、全額政活費で充てていた例も。舛添知事の疑惑追及に腰が引けるのもうなずける。
26年度決算によると、報酬や政活費など127人の都議の“人件費”に、それを支える議会局職員約150人分の給与などを加えれば、都議会維持の費用総額は計56億円に及ぶ。
住民に見えない議会活動を支えるため、法外な税金がつぎ込まれる。地方議会はそもそも、誰のために存在するのか。これでは不要論にもつながりかねない。
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号泣元県議に代表される耳を疑う不祥事、暴走首長に弱腰で、有権者不在の議会運営…なのに報酬は世界最高レベル。地方議員に対する住民の信任はすでに地に落ち、日本の民主主義が地方から崩れようとしている。少子高齢化など地域が直面する課題に、もっといかす方法はないのか。「にっぽん再構築・第3部」で考えたい。
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