これは新しい形の“直訴”なのか。
「保育園落ちた日本死ね!」-。匿名のブログに書き込まれたこの刺激的なフレーズが、中央政界を巻き込んだ大騒動に発展したことは記憶に新しい。このブログをきっかけに待機児童問題がクローズアップされ、政府は慌てて、小規模保育所の定員拡大などの緊急対策を発表した。
待機児童対策は一義的には地方自治体が解決すべき案件であるはずだ。しかし、保育園用地にもなり得る都心の一等地を在日韓国人の学校に提供しようとする東京都に対し「保育園落ちた東京都死ね!」と訴える書き込みは、なぜか目にしたことがない。そのことは地方自治体や地方議会の影の薄さを物語っている。
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「まあ、落書きですね。こういうものを振りかざして国会で質問しているようでは野党はだめだと思う」
3月31日、自民党東京都連の会合で、元杉並区長の山田宏氏がこう述べたことが報じられると、瞬く間にネットで拡散され、批判のコメントが殺到した。
改めて山田氏に真意を聞くと、「ブログを利用して子育てを親の責任から社会の責任に転化させようとする野党の姿勢に怒った。ブログに飛びついて政府を批判して不満をあおっても解決にはならない」と指摘。
区長時代に待機児童「ゼロ」を達成した実績があるだけに、「地域の事情を一番詳しく分かっているのは地方自治体だ。市区町村が住民と相談をしながら独自の観点で予算を組むべきだ」と訴える。
インターネットによる民意の氾濫。名古屋大の後(うしろ)房雄教授(政治学)は「政治家が必要以上に世論に影響され、統治が難しくなる危険性もある」と危惧する。それだけに「匿名で問題が提起されたときに正当性がある指摘なのかどうかを、的確に見抜く能力が求められる」と指摘する。
その能力が今の地方議会に決定的に欠けているからこそ、民意はネットを通じて直接、中央政界へと向かう。「正当な民意」は地方を素通りし、代わって「特定の民意」が地方政治を支配するようになる。
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群馬県高崎市のホームページ(HP)には、「『高崎市自治基本条例(仮称)』について引き続き慎重に検討をしています」との文言が掲げられている。
高崎市が同条例の制定に動き出したのは平成20年度。市職員で構成するプロジェクトチームを設置し、22年度には制定の一歩手前までこぎ着けた。
市議の中には議会の軽視につながるとの声もあったが、議会特別委は「執行部の説明を受けただけで実質議論はなかった」(保守系市議)。しかし、パブリックコメント(意見公募)で市内外から反対意見が相次ぎ、議会への条例案提出を見送った。
“お蔵入り”となったはずの条例が、なぜ今も市政の俎(そ)上(じょう)に載っているのか。
市企画調整課は「条例制定を進める動きはないが、HPを削除することは考えていない」と曖昧な説明に終始する。
条例策定を主導したのは、民主党(当時)支持団体である自治労傘下の市職員労組幹部で、公募されたプロジェクトチームに当初から参画していた。
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議会が機能不全に陥る自治体で、「正当な民意」をゆがめかねない“装置”が着々と整備されつつある。
「まちづくり条例」「まちづくり基本条例」「行政基本条例」「市民基本条例」…。名称はさまざまだが、「自治の基本理念や仕組みを定める」ことをうたう同種の条例は、民主党政権時代(平成21年9月~24年12月)に全国で制定の動きが進み、300を超える自治体で施行された。
しかし、「住民」の定義が曖昧だったり、外国人の住民投票参加も容認されかねないなど、多くの問題点も指摘されている。
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「外国籍住民の参加を認めたうえで、住民投票が行われた場合は何が起きるのか。防衛などの国家主権に外国人が関与しかねない」
26年10月、神奈川県茅ケ崎市で開催された「常設型住民投票条例に反対する市民の会」結成式で、保守系団体「日本会議」に所属する男性(69)があいさつすると、会場からは大きな拍手がわき起こった。
同市は22年に施行した自治基本条例に基づき、住民投票制度検討委員会を発足。住民投票制度には、一定の署名数など必要な条件を満たせば議会の承認なしに実施が可能な「常設型」と、個別課題ごとに議会で審議し、条例が成立した場合のみ実施される「個別型」の2種類がある。市は26年7月、2回にわたって「常設型」を前提に意見交換会を実施した。
当時の議事録を読むと、「住民が行政に参加する機会を増やすメリットがある」「常設型の住民投票条例は過去、地方自治に大混乱をもたらした」といった賛否で割れ、紛糾している様子がうかがえる。
これを契機に反対派による「市民の会」が結成され、その後の検討委では意見がまとまらず、27年3月に市に提出した答申は「しばらく慎重に対応すべきだ」という“玉虫色”に終わった。
同県大和市は17年に自治基本条例を施行。「市長および市議会は、厚木基地の移転が実現するよう努める」とも定めたため、市や市民で構成する基地対策協議会が外務、防衛両省や米軍に対し毎年のように移転を要求している。
自治基本条例の制定によって、政府が担うべき外交、防衛案件までもが、住民投票で書き換えられる恐れがある。つまり、地方による事実上の「国家解体」という危険も内包する。さらに問題なのは、条例が想定する「住民」に、日本国籍を有しない在日外国人が含まれる可能性が極めて高いことだ。
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三重県四日市市の市民自治基本条例は「市民」を「本市の区域内に居住する者」と規定。同県名張市の条例は「市内で住む者、働く者若しくは学ぶ者、市内に事業所を置く事業者又は市内で活動する団体をいう」と定義し、国籍の有無は問うていない。
札幌市の条例にいたっては「市内において事業活動その他の活動を行う者」も「市民」と位置付けている。これでは、いわゆる「活動家」も立派な札幌市民ということになる。
日大の百地章教授は「最高裁は外国人について『わが国の政治的意思決定に影響を及ぼすような政治活動は許されない』としている。外国人により地方自治体の動向が左右されるとすれば憲法違反の疑いが濃厚だ」と指摘。「外国人参政権の導入を目指す勢力は正面突破をあきらめ、自治基本条例を使ってからめ手から攻めようとしているのではないか」と危惧する。
住民の代表機関であるはずの議会が本来の役割を果たさぬゆえに、地方自治は特定勢力の独走を許しかねない。
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沖縄県議会は昨年7月、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設先である名護市辺野古の埋め立てを妨げる土砂規制条例を可決した。同12月には、翁長雄志知事の埋め立て承認取り消しの効力を停止させた政府決定の撤回を求める抗告訴訟提起議決案も可決した。
自民党県連の幹事長も務めていた翁長氏だが、知事選出馬では共産党や社民党など革新勢力と手を結び、支持勢力が議会で多数を占める。その結果、県議会は「オール沖縄」の名のもと、「特定の民意」がまかり通り、国に反旗を翻し続けている。
自民党県連副会長の翁長政俊県議は「知事を追い詰めるだけの法令などに関する勉強が議員には足りない」と話す。
特定勢力の操り人形と化した知事にチェック機能が働いているとはいえないのが現状だ。
「暴走」のツケは結局、国民全体に重くのしかかってくる。
http://www.sankei.com/politics/news/160521/plt1605210017-n1.html
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