人口減少が進む小規模自治体で議員のなり手不足が深刻になっている。11月に行われた群馬県の昭和村議選の立候補者は定数を3下回る9人にとどまり、欠員を補う再選挙が群馬県内で初めて実施されることになった。21市町村議選が予定される来年4月の統一地方選では、渋川など6市町村が定数の削減を決めている。
なり手不足は全国的な課題だ。2015年の統一地方選で改選された町村議会のうち、無投票は24%に上った。高知県大川村の和田知士村長は昨年6月、議会の代わりに有権者が予算案などを直接審議する「総会」の設置検討を表明。国や自治体は危機感を強めた。総務省は有識者研究会を立ち上げて対応を検討。今年3月の報告書で、従来の型にはまらない議会制度を提言し、議論を呼んだ。
なり手不足は全国的な課題だ。2015年の統一地方選で改選された町村議会のうち、無投票は24%に上った。高知県大川村の和田知士村長は昨年6月、議会の代わりに有権者が予算案などを直接審議する「総会」の設置検討を表明。国や自治体は危機感を強めた。総務省は有識者研究会を立ち上げて対応を検討。今年3月の報告書で、従来の型にはまらない議会制度を提言し、議論を呼んだ。
《制度改革派》町村では住民自治拡大…関東学園大教授 並河仁さん
関東学園大経済学部教授の並河仁さん(46)は既存の制度にとらわれず「議員の条件を緩め、議員が政策立案に一層関わる仕組みをつくるべきだ」と訴える。
―昭和村議選の再選挙をどう受け止めるか。
残念なことだが、どの小規模自治体で起きても不思議はない。定数を減らして回避したり、無投票になったりした所も多い。
―なり手不足の要因に報酬の低さを指摘する声がある。
一因だろう。昭和村の議員報酬は、村役場の大卒一般職や全国の短大卒の初任給より低い。落選のリスクもある。求められる人格や識見に見合わない。逆に報酬を魅力とするには相当な額を出す必要がある上、金目当ての人が現れる恐れがある。使い道を絞った政務活動費を増やすのは一案だ。
―他の要因は。
小さな町村の中心人物は自治体から仕事を請け負う事業者が多く、意欲があっても議員職と兼務できない決まりだ。公正さは大切だが、条件を緩め、利害関係をオープンにして管理する方策は取れないだろうか。
やりがいも重要だ。行政は、住民や識者を招いた委員会で政策や計画を作る。議員は議決はしても企画段階にあまり関与できない。住民は困り事があれば区長や民生委員を頼る。国会議員が首長に転出するのは、大きな権限と責任を持って新しい政策に自ら挑戦できる環境が魅力的だからではないか。
―地方議員の役割とは。
権限が集中する首長とは異なる選挙で選ばれ、権力を監視する。国から独立して住民が自ら治めるという地方自治の本旨を担う。ただ、行政の業務は拡大し、一議員があらゆる分野を網羅して監視するのが難しくなっている。特に町村では二元代表制を厳格に維持するのは限界。手法を変え、住民自治を拡大すべきだ。
―総務省の有識者研究会が今年3月、既存の議会制度にとらわれない形態や住民参画の仕組みを提案した。
合併を経て市町村は大きくなり、住民との距離が生まれ、集権化が進んでいる。住民参画が一層大切な時代になった。議員が住民自治の担い手として重要な役割を果たせる体制を整えることが肝要だ。議員の在り方を大きく変え、1人当たりの力を小さくしてでも、より多くの人が加われるようにすべきだろう。
提案からは、住民を代表する議員が政策立案の過程に参加できるようにすることで議員のやりがいを創出する手法が編み出せそうだ。行政の委員会に住民が参加してくれるのは、報酬ではなく、意見を述べて政治に参画することに意義を感じるからだ。
―制度の参考例はあるか。
憲法との整合性は横に置き、議員の中から首長を指名・任命する国会の議院内閣制や米国の郡レベルで見られる「議会・支配人型」が参考になるのではないか。どんな制度にせよ、住民の関心と参加意欲がなければ機能しないことに留意する必要がある。
なみかわ・ひとし 1972年生まれ。京都市出身。京都大大学院法学研究科博士課程単位取得退学。2003年に関東学園大講師、15年から現職。専門は政治学。太田市
《制度維持派》立候補の不安 取り除く…神流町議会議長 天野賢さん
一方で、神流町議会議長の天野賢さん(46)は、現行制度で選ばれる議員が今後も重い役割を担うべきだとして「待遇を向上させて、民意を伝える機能を守るべきだ」と唱える。
―県内初の再選挙が行われることになった。どう受け止めるか。
社会全体で人口が減り、いつか起きると思っていた。人口7500人の昭和村だったのは意外だった。昨年の神流町議選は人口2000人で9人が立候補した。人口規模に比例する単純な問題ではないと感じている。
―地方議員の役割は。
住民の声を代弁することだ。本会議や委員会などさまざまな場で行政に民意が反映されるよう提案、修正する。消滅する恐れがある集落が現れており、小さな声を丁寧にすくう大切さは増していく。
自治体の執行部を監視する機能も果たす。地域の要望をどう捉え、何を行おうとしているのか、議員が確かめる。
―高知県大川村で、有権者が全員参加する「町村総会」の議論があった。
意見が出過ぎて住民の細やかな要望が反映されない恐れがある。結局、意見を集約する代表者が必要になり、議員や区長と同じだ。選挙で選ばれた議員は多数の住民を背負っている。議員の言葉イコール住民の言葉だからこそ、執行部は重く受け止める。
―神流町の議員定数は上野村と並び県内最少の8。
少な過ぎると意見の多様性が損なわれ、活発な議論ができない。人口減に沿って定数を減らし過ぎれば全住民の思いをカバーできなくなってしまう。私は定数が12から10に減った選挙で初当選し、今はさらに減った。現状がぎりぎりの人数だと感じている。
―総務省の有識者研究会は、非専業の議員による夜や休日の議会制度などを提案した。
議員は365日議員だ。会議や自治体行事への参加など、活動は昼夜にわたり、片手間で務められる仕事ではない。議論を喚起するたたき台を作った点で評価するが、議会を夜や休日に開くことは反対だ。立候補者の増加を狙うだけで、議員の質を考えていないのではないか。日当制にも賛同できない。
勤務条件を緩和したり機能を分割し過ぎたりすると、執行部から軽い存在と思われてしまう恐れがある。別々の選挙で選ばれた首長と議会が緊張感を保つ、二元代表制は立ちゆかなくなり、地方政治の質は低下するだろう。
―なり手不足の打開策は。
政治を自分ごとと捉えてもらうことが重要だ。誇りを持って活発に議員活動をすれば、住民の見る目は変わる。住民と議員が気軽に話せる議会報告会などを設けて関心を高めてもらうのも良いだろう。
自治体ごとに抱える事情は千差万別で、特効薬はない。ただ、立候補する上での不安を取り除く施策は必要だ。例えば厚生年金への加入を認めることも有効。これは全国や県の町村議会議長会も政府に要望している。議員を辞めた後の保障には意味がある。議員報酬に関しても検討が必要だろう。
あまの・けん 1972年生まれ。神流町万場出身。万場高卒。刃物製造業。町商工会理事。南甘漁業協同組合理事。2009年に初当選し、3期目。2017年3月から議長
《有識者研究会》 座長の小田切徳美明治大教授ら有識者8人が委員で、総務省幹部も参加して地方議会議員のなり手不足対策を検討した。今年3月にまとめた報告書で、少数の議員による「集中専門型」と、兼業・兼職制限を緩和する「多数参画型」の二つの仕組みを、小規模市町村が選択できるよう提言した。政府の地方制度調査会でも論点となる見通しだが、各自治体の事情や意見を反映しない国の「押し付け」に地方側の反発は強く、議論は難航が予想される。
https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/politics/99680?fbclid=IwAR2WDY49mnHgjhUD5n2I_0oikv56oYOjhzXVFMKhSb6HBDSja33y3vBAmrg
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