2014年11月2日日曜日

どう見る 議員定数削減 識者に聞く


<神奈川新聞より> 

2011年4月の前回統一地方選の後、県内34地方議会のうち、半数に迫る15議会が議員定数の削減を決定もしくは実施した。全国的に進む議員定数の削減傾向を識者はどうみるか。元総務大臣の片山善博慶大教授(63)と、早大マニフェスト研究所事務局長の中村健氏(43)に聞いた。

◆「少数で決定できる」片山氏

-議員定数削減の流れをどうみるか。

 「発端は議会不要論で、人口減少が深刻化する前から始まっている。ヤジと根回しばかりして、議案の決定に専念するという本分を果たしていないからだ」

 -適正な議員定数は。

 「日本は総じて多すぎる。戦後、日本が地方自治の手本としてきた米国では、市町村に当たる基礎自治体の議員定数は7~11人程度。議会は決定機関であり、物事を決めるのにそれで十分だからだ。米国の地方議会は役割といい議場のレイアウトといい、裁判所に近い。日本も最高裁判所大法廷の裁判官は15人だ。地方議会は7~11人いれば議案を決定できるはず」

 -大都市でも議員数は7~11人で足りるのか。

 「実は議案数と人口の多寡はあまり関係がない。大都市でも村でも予算は毎年1本だし、条例の数もそれほど大差があるわけではない。議員数は議案数に比例して考慮すればよい」

 「議員が市民の元に出向いてご用聞きをし、代弁者として議会で首長に要求するという現行スタイルでは、人口に応じた議員定数が必要になる。しかし市民が議会に参加して意見を述べるスタイルにすれば、そんなに議員の数はいらない。米国の地方議会では、議会の委員会などの公聴会に誰でも参加でき、市民が議会に直接意見を訴える仕組みになっている」

 -人口約370万人の横浜市では、意見のある市民全員を受け止められるか。

 「意見のある市民が多すぎて、議会が受け止められないのは、地方自治の規模の限界を超えているということだ。主権者である市民に意見表明の場がないのは、地方自治ではない。横浜市は自治体規模として大きすぎる。区ごとに議会を設置するくらいでちょうどよいのではないか」

 「逆に人口も議員数も少ない町や村は、住民参加を促しつつ、少数精鋭の議員で決定する議会に変わるチャンスだ」

 -市民の側も地方議会への参加意識を高める必要があるのではないか。

 「言いたいことがある住民は多いはず。ただ現在の地方議会の定例会のように、平日昼間の開催では、参加できる人は限られる。通年議会として毎週定期的に開催し、公聴会を夕方に設けるなど、多くの住民が参加しやすくする工夫は必要だ」

 -議員定数が減ると、小規模政党の議席確保が困難になるのでは。

 「可能性はある。しかし議会が誰でも意見表明できる場を設ければ、主張を排除することにはならない。実際、米国ではマイノリティーや市民団体が議会の公聴会で訴え、条例制定に結び付けたり、活動の拡大につなげたりしている」

 -議員数が少なすぎると議会の委員会活動に支障が出るという意見もある。

 「委員会での議論に専門的な見地は必要だが、議員が専門性を身に付ける必要はない。参考人質疑として適切な専門家を招いて、市民も一緒に解説を受け、議論すればよい」

 -少数精鋭の議員に必要な資質は。

 「常識人であること。住民も参加する委員会をまとめたり、主張の異なる議員を説得したりする力も必要だ。ヤジや居眠りをしている暇はなくなるだろう」

◆「質を高めよ」中村氏

-全国的に議員定数削減が進んでいる。

 「『根拠なき削減』という一つの問題提起をしたい。高度経済成長期あたりから行政も組織が肥大化したが、平成の大合併後は公務員の量的削減が進み、議会にもメスが入ったというのが大きな流れだ。ただ、執行機関の行政と議決機関の議会の役割は異なっているのに、行政にならって議会も量的削減というのは、そもそもおかしい。行政が頑張っているから議会も血を流さないと、という感情論ばかりが先行している」

 「選挙前に削減する例も多いが、議員はアピールすることがそれしかないのだろうか。ほとんどの議会が予算審議や決算審査などは行政から説明を受けて承認するという流れ作業になっている。だから議会は人も金もいらないと声が上がる。兵庫県議会などの不祥事がそれに輪を掛けた」

 -歯止めをかけるには。

 「(議会の透明化や議論の活性化などを目指す)議会基本条例の制定の動きが全国の地方議会で広がっており、一つのきっかけになると思う。議会が目覚め、地方分権時代に議会が何を果たすべきかということが考えられ始めてきた。今まで多くの議員が条例をつくった経験がないので、そのプロセスが大事。議会を応援する立場としては、明るい面もあるとみている。議会の質が高まれば削減を求める声は落ち着く」

 -議員定数の適正規模についてはどう考えるか。

 「判断基準がないのが問題。自治体の面積や人口、年齢層などいろいろな条件を踏まえて適正規模を割り出せないか、と私たちも研究している。削減するなら議会の環境整備が必要だ。注目すべきは議会事務局。担当職員が1人の自治体もあるが、それでは議事録の作成で終わってしまう。外部有識者をアドバイザーに据えるとか、法務担当を増やすとか、周辺自治体と広域で議会事務局の専門職員を採用するなどして、議会のサポート体制を整えれば削減は可能だし、議会改革は進む。ICT導入などで事務効率を上げることも一つの手段だ」

 -適正規模の本質的な議論はあるか。

 「会津若松市議会は3年くらい前に適正な定数と報酬を試算して市民に示した。その際、『今の活動をベースにするな』と反発があった。もっともな話で、結婚式や葬式などプライベートのようなことでも政務という場合がある。議会は活動を見直し、議論を重ねているところだと聞いている。会津若松市は市民の意見を聞いて、政策、議案に反映させ、結論を市民に報告して意見交換をし、次の政策に生かす仕組みにしている。議員定数についても市民と一緒につくりあげていこうとしている」

 -議会に求めることは。

 「議会や行政の取り組みが市民生活にどんな変化をもたらしたかを検証し、報告するという点が欠けている。例えば温泉地に視察に行った場合は、内容を報告して終わり、が現状。視察をどう生かしたかを検証しないから信用されない。議会が信頼を得るにはそれが課題だ。議会基本条例についても、制定しただけで取り組みに結び付いていない議会もあり、外部の目を入れた検証が必要だ」

 

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