2014年11月29日土曜日

"選挙に行く"ことの意味とは何か -- 福岡市の子どもたちから学ぶべきこと

<ネット記事より>

1121日に衆議院が解散し、1214日に衆院議員選挙が行われることとなった。経済政策に対する評価、消費税増税先送り、憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認、北朝鮮の拉致問題、社会保障政策、沖縄基地問題などなど、安倍政権がこれまで行ってきた政策に対する評価が争点となる選挙になりそうだが、気になるのは年末という時期が投票率にどのような影響を与えるのかという点だ。

近年、国政選挙や地方自治体の選挙の投票率は、低迷が続いている。特に、20代、30代の下降傾向は顕著で、総務省のまとめによると、平成2年第39回衆院選の20代の投票率は57.76%だったのに対して、平成24年第46回衆院選の20代の投票率は37.89%と実に20%も下落している。これから日本経済の主役となっていく若者の"選挙離れ"は、もはや看過できない状態にまで深刻化していると言えよう。

ただこれは、やみくもに"選挙に行きましょう"と訴えたところで、すぐに若者が振り向いてくれるほど簡単な問題ではない。重要なのは、選挙に参加することそのものにどのような意義があるのかを改めて考え、そしてそれを若者と共有することなのではないだろうか。

ここで、福岡市選挙管理委員会が行ったある試みを紹介したい。舞台となったのは、福岡市動物園。1116日に投開票された福岡市長選挙への関心を高めることを目的として、111日から1週間かけ、本物の選挙と全く同じ仕組みで、立候補した動物たちの中から子どもたちの投票で"園長"を決める「どうぶつの えんちょうせんきょ」が開催されたのだ。

"園長"に立候補したのは、ゾウ、ゴリラ、カワウソ、ペンギン、キリンという動物園の人気動物たち。それぞれの候補者たちは、厩舎の前に"マニフェスト"を掲げて有権者である子どもたちに理解を求め、各候補者の政見放送も制作してYouTubeに公開。そして、候補者を担当している飼育員たちが子どもたちに向けて"応援演説"を行い、支持を訴えた。また、投票には実際に選挙で使われるジェラルミン製の投票箱が用意され、子どもたちが投票用紙を入れるとそれぞれの投票箱に仕掛けられた動物のしっぽが動くという楽しさも用意したという。

1週間にわたる選挙戦は2,286票の有効投票をもって118日に幕を閉じ、即日開票の結果、『「ありがとう」がいえる、どうぶつ園へ』というマニフェストを掲げたアジアゾウの「はな子」が当選した。"選挙事務所"ならぬアジアゾウの厩舎前では当選セレモニーが行われ、支持者が集まって万歳三唱をしたり、お祝いの品として好物盛り合わせが「はな子」に進呈されたという。

そして、当選した「はな子」はさっそくマニフェストを実行。『「ありがとう」がいえる、どうぶつ園へ』という公約から、はな子のウンチと牛乳パックの紙を混ぜて作った「ウンチペーパー」を"日頃の感謝の手紙"としてエサを提供している農家と来場者に贈ったのだそうだ。「きちんとマニフェストを実行することで、子どもにとっての選挙のイメージアップにつながるのではないか。(この取り組みを通じて)選挙に積極的なお子さんを見た大人たちの、選挙への関心も高まってくれれば」と福岡市の担当者は語っている。

こうして幕を閉じた動物たちの選挙戦だが、驚くべきはその投票率の高さだ。福岡市動物園によると、子どもたちの投票率は64.1%にものぼり、前回の福岡市長選の20代の投票率(約21%)の3倍もの数字をたたき出したのだという。子どもたちが「選挙」というものに真剣に取り組んだことを証明する数字だ。

読者の中には、この64.1%という投票率の高さについて、「動物園のイベントとして開催しているから」「動物が主役になって楽しくやっているから」「あくまで子どもたちが"遊び"としてやっているから」と感じる人もいるかもしれない。しかし、子どもたちの「選挙」という行為そのものに対する意識は、大人が今まで持っていたイメージとは全く異なるのだ。

福岡市選挙管理員会が今回の「どうぶつの えんちょうせんきょ」と並行して行った、選挙権を持たない19歳以下の子どもたち225人に行ったインタビュー調査によると、「大人になったら選挙に行きたい」という意見は70.2%に。そのうち、小学生で「選挙に行きたい」という意見は75.7%にものぼったのだという。

更に興味深いのは、「行きたい」と考える理由だ。選挙に行きたいという子どもたちからは、「国に関わることだから」(小学6年生)、「投票しないで、嫌な人になったら(当選したら)嫌」(小学4年生)、「貢献したい」(高校3年生)、「決めたいから」(小学5年生)、「参加しなくて文句を言うのは、恥ずかしいと思う」(中学1年)といった意見が挙がっている。子どもたちは、大人以上に「選挙」というものに対して積極的であり、「選挙は自分たちの将来を決めることだ」ということを理解しているのだ。

では、なぜ大人にはこうした選挙に対する関心が生まれないのか。ヒントは、「どうぶつの えんちょうせんきょ」で当選したゾウの「はな子」と、子どもたちの声にあるのではないかと筆者は考える。

「はな子」は、子どもたちに共感されるわかりやすいマニフェストを掲げ、そしてそれを当選後すぐに実行に移し、支持者である子どもたちの期待に応えた。共感して投票した子どもたちの期待に応えることで、子どもたちとの信頼関係を確かなものにしようとしたのだ。一方で、アンケートで「大人になったら選挙に行きたくない」と答えた子どもたちからは、「口だけの奴とかキライ」(高校2年生)、「誰がなっても一緒」(中学1年生)、「行っても行かなくても変わらない」(高校3年生)」といった声が挙がり、大人も感じているような無力感、失望感が感じられる。

こうした厳しい意見は、"選挙で投票したら自分たちの将来はどう変わっていくのか"ということがよくわからず、そして候補者の訴えに共感して期待を込めて投票しても、それがゾウの「はな子」がしたように確実に有言実行されると信じることができないということを意味している。有権者が期待することは何かを理解し、有権者に対して真摯な姿勢でわかりやすく将来を語り、そして、当選後にはその約束を有言実行するために努力するという当たり前のことができていないことが、有権者の選挙や政治に対する無関心や失望感に繋がってしまっているのではないだろうか。

子どもたちが語ったように、選挙とは私たちの将来を「決める」ために行うものだ。そのためには、候補者が有権者に対して何を決めてほしいのか、何を支持してほしいのか、有権者のどのような期待に応えるのかをわかりやすく説明することが重要であり、そしてその訴えが支持された暁には、当選者には有権者の期待を裏切らない真摯な施政が求められる。そういう選挙の原点に立ち返ってはじめて、有権者は「決めるために選挙で投票しよう」と考えるのではないだろうか。もちろん、有権者自身も将来を「決める」ために、候補者の訴えに積極的に耳を傾ける努力が必要だ。

「どうぶつの えんちょうせんきょ」に参加した子どもたちが大人になるとき、選挙を取り巻く環境はどう変わっているのか。「大人になったら選挙に行きたい」と積極的な子どもたちの気持ちを裏切らないためには、まず大人たちが変わらなければいけないのではないだろうか。


 

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