北海道当別町にある共生型コミュニティ農園「ぺこぺこのはたけ」を視察した。農業を通じで子ども、高齢者、障がい者、学生などの交流拠点だが、そこには福祉だけに陥らない仕掛けがあった。
■介護の場としても
「ぺこぺこのはたけ」は畑に隣接しており、経営にあたるのは社会福祉法人「ゆうゆう」(この事業はNPOとして別事業者にしている)。ランチメニューに使う食材18種類のうち17種はこの畑から採れたものだ。いわゆる地産地消レストランで、障がい者の雇用の場としても考えられている。
レストランを雇用の場にすることは武蔵野市でも同様な例があるが、それだけでないところに驚かされる。
そのひとつは、高齢者、それも要介護2、痴呆症を持ち幻視が見える方がこの畑で作業をしていることだ。炎天下で脱水症状になったこともあるが、畑で作業することで幻視がなくなり認知症の改善にもつながっているという。
なぜ改善しているかの学術的な検証はされていないそうだが、人に頼られることが嬉しさにつながっているのではないか。畑の状態が悪いと時には怒ることもあるそうで、説明にあたっていた「ゆうゆう」の理事長、大原裕介さんは、喜怒哀楽のある生活が改善になっているのではないかと話されていた。
大原さんは、高齢者施設に囲い込んでしまうと皆が同じようなことをすることになり、個人の生きてきた道を無視することになる。みんながソフトバレーをしたいのじゃない。その人のことを考えれば個別に対応すること、ひとをつなげることが必要だと話されていた。
たとえば、高齢者施設に来ても囲碁を一人でやっている高齢者と学校やIQは高いが学校や地域との関係をうまく作れない小学生を囲碁で対局させたところ、小学生が負けてしまった。この小学生がパニックになるかと思ったら、高齢者を「師匠」と呼び囲碁を習うことで同じ時間をすごすようになった。
一定の時間を一緒に過ごせるなら見守りになり高齢者施設に通う必要はない。ボランティアの学生も入り高齢者の自宅で囲碁教室をすることで高齢者と子どもの双方の見守りとなったとの例だ。何事もないように施設に囲い込むことが結果的にその人のためにならず、さらに言えば、事業費がかかってしまうことになる。
人と人とのマッチングが簡単にはいかないだろうが、考えなくてはならないことだろう。
■子ども食堂よりも
このことだけではなく、「ゆうゆう」にはパティシエの職員もいる。経営が難しくなった店舗を使い、商品の販売だけでなく店の本物の道具を使い子どもたちに菓子作りなどを教えているのだそうだ。このポイントは、教えることが目的でなく、子どもに夢を与えることも仕事だと考えての事業としていることだ。当別町は、若者がやりたいことがない町、だからやりたいことを作る。子どもに夢を与えられないことが子どもの貧困の本来の問題と考えたからだそうで、ここに大きなヒントがありそうだ。
「ぺこぺこのはたけ」の畑では、子どもが自由に来て、農作物を持って帰ってもいいとしているという。菓子作りや料理を学んだ子どもが自分で調理をするのかもしれない。子ども食堂が各地で注目されているが、食事を提供するだけでなく、食材を持って帰り食べるというのも貧困対策のヒントかもしれないと思った。
■本物でないと失礼
「ぺこぺこのはたけ」のメニューは、札幌のホテルの料理長が監修にあたる。シェフはまだ若い女性だが、東京の銀座で仲間と店を開いていた経歴を持つが、店舗の移転問題があったさいにあえて社員として引っ張ってきたのだという。
障がい者雇用の場としてのレストランは、他に事例はあるが参考になるのは、本物をつくるべきだ。福祉がメニューを作ってはダメ。商売をやっている人に失礼だとも話されていた。
味で勝負ができれば、商売になる。そのことで収益になれば補助金頼みでの事業にならないとの考えだ。初期段階に行政からの支援は必要としても、ゴールは自立すること。そのためには、本物で勝負する。このことは多くの自治体で考えるべきことだろう。
この発想が理解さら、東京にも進出し、事業収入の柱ともなっているという。
■福祉の縦割り
大原さんがこのような事業を始めるきっかけについても伺った。
本人いわく、"大学受験に失敗"し、当別町にある北海道医療大に"不本意ながら"進学。実習で自閉症の子どもと関わったところ、子どもが小さいうちはまだしも、成長すると支援策がないことを知る。障がい児の居場所を作り、さらに就労先も考えようと企業化を始める。
その過程の中で、障がい児、障がい者の問題も子育て支援も介護問題も基本的な対応は同じと気がつく。今の福祉は、それぞれの問題に対して個別に対応しているが、個別に囲い込むのではなく同じ場所でやったほうが良いのではないか。障がいがあるといってもできることはたくさんあると考え、支援を受ける側が支援することもできる。これは高齢者も同じと発想を変えたのだそうだ。
障がい者、子ども、生活支援、介護。それぞれに縦割りにサービスをするから、それぞれに人が必要になる。同じ場所で行えば、支援される側も支援にあたり、スタッフもひとつのことだけでなく複数を対応すれば人の数は減らせると考えた。ここで重要なのは、人件費削減と考えるのでなく、一人当たりの給料をこのことで増やせると考えたことだ。
このことで、ひとつの職種でなく複数のことができると評価され、今や就職フェアでは1,2位の希望者があり、当別町にやってくる若者が増えているという。町の活性化にも結びついていることにもなる。政府の一億総活躍プランでも地域の実例として紹介され、注目も集まっているという。
課題は、このような福祉の総合職を育成できる学校がないこと。今は専門職を育成する学校しかないことだという。このことは、国の仕事ともいえるが自治体で資格をつくり認定し、地域での仕事を生み出していくことも必要だろう。この実践もあって当別町では始まっている。多くの自治体で参考にすべきことだ。
■福祉でなく、まちづくり
大原さんの言葉で印象に残っているのは「自閉症と同じなんですよ。社会的トラブルは、やっている行為を制限するのではなく、満たすことで解決につながる。介護ではできていない」という一言。何事も面倒がないように押さえ込む、均一化するのではなく、できることを考えていくことで、他の課題解決にもつながるということだ。
大原さんはまた、winwinの関係がないと事業は成り立たない。イベント行うことを目的にするべきでなく、来てもらって何をしたいかだ。そのためにきてもらう工夫をする。これは福祉事業も同じということだ。
福祉だけの視点だけでなくまちづくり、地域づくりで福祉を考える。発想の転換が今後の時代を考えると必要だ。その実例を見させていただいた。
余談だが、37歳でこのような事業展開をしている大原さんには驚かされた。政府の審議会委員もしているそうなので、新たな福祉をつくりだすキーパーソンとなりそうだ。
この視察は、北海道の地方議員を中心に組織されているシード21の研修会で行われたもの。知人から紹介されて参加したが得たものは多い。他にも言後、報告する。
http://blog.livedoor.jp/go_wild/archives/52470724.html
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