国会での議員立法に相当する「政策条例」の制定に積極的な自治体議会では、議員の平均年齢が低い傾向にあることが、毎日新聞の「全国自治体議会アンケート」で分かった。また、政策条例の積極度や平均年齢の低さは、女性議員の比率の高さや都市化度(人口集中度)とも一定の相関関係がみられた。調査の結果は、自治体議会改革を進める際のヒントとなりそうだ。
「政策条例」は、議員が自ら条例案を作って、行政に政策を実行させる条例のこと。ここ10年ほど自治体議会の改革度を測る指標となっている。
調査によると、前回統一地方選の2011年4月以降、議員提案の政策条例(改正含む)を可決した議会は、全体の17%(274議会)。可決数を見ると、その約3分の2が1件。2件以上は93議会で、全体の中では6%にとどまっている。調査に協力した議会のうち、可決数が最も多かったのは、さいたま市議会の11件、2番目は横浜市議会の10件。
一方、全国の議員の平均年齢は60.1歳。全体を3等分するように(1)63歳以上(高い)(2)60歳以上63歳未満(標準的)(3)60歳未満(低い)−−に区切り、政策条例ゼロの1318議会を3分類すると「低い」は30%(7割が60歳以上)だった。これに対し1件可決した181議会では「低い」が46%(84議会)、2件以上の93議会では68%(63議会)を占める。5本以上可決した10議会に絞り込むと8議会が「低い」だった。10議会の平均年齢は54.9歳で全体の平均より5.2歳低い。政策条例を可決した274議会全体では、過半数の54%(147議会)が「低い」に分類された。
国勢調査のデータに基づいて有権者の平均年齢で分析しても、政策条例に積極的な議会を持つ自治体では有権者も比較的若い。
さらには、政策条例に積極的な議会は女性議員比率が高い傾向も見られた。逆に女性ゼロの議会(306議会)で政策条例を可決した議会は8%(24議会)しかなかった。
また、自治体を人口の集中度合いに応じて大都市から農村まで5分類した「都市化度」でみると、2件以上可決した議会は、都市化度の最も高い「大都市」と2番目に高い「都市」で54%を占めている。
ちなみに、議員の条例提案自体がゼロだった議会は、全体の20%(316議会)に上った。最も多いのは、定数や報酬の削減など議会内のルールを決める議員提案条例のみが成立したケース(63%、1002議会)だった。【日下部聡、大隈慎吾】
◇全国自治体議会アンケートの概要
毎日新聞が昨年12月〜今年2月、全国1788の都道府県・市区町村議会の事務局を対象に実施し、89%の1592議会から回答を得た。議員の男女別人数や平均年齢などに加え、政策条例の可決数▽首長提案議案の否決・修正数−−など「政策力」を測るデータを集めた。理念や活動原則を定める「議会基本条例」など議会内の決まりに関する条例は政策条例から除外した。
◇地方自治に詳しい江藤俊昭・山梨学院大教授の話
今回の調査結果を見ると、議員が高齢の議会は政策条例の制定ゼロが圧倒的に多い。女性議員がいない議会の93%が政策条例ゼロというのも象徴的だ。
少子高齢化など難しい課題が山積する一方、自治体の財政は厳しく、支出の「選択と集中」が必要な時代だ。議会は多様な住民の声を吸収しながら首長と政策競争をすることが求められる。
首長の追認機関化している議会は、このような現実に対応できず、議員もやりがいを失う。立候補者は減り、議員は高齢の男性に偏る。その結果、さらに課題の解決が困難になり、住民の不信を招くという「負の連鎖」に陥っていく。
しかし一方で、議員提案の政策条例は徐々に増えている。自らの役割に目覚める議会も出てきているということだ。2000年の地方分権一括法施行で国の機関委任事務が廃止され、自治体独自の政策が求められるようになったことが大きい。
議会は本来、条例の制定だけでなく、予算案の修正、契約や財産取得の承認など、強い権限を持っている。縦割りに陥りやすい行政と違い、総合的な視点で政策を実現することができる。
そのためには議会報告会の開催など、開かれた議会への改革が同時に必要だ。議会が積極的に政策作りを進め、住民にきちんと説明する。住民もそれに応えて議会を監視し参加する。そういう「正の連鎖」につなげたい。
議会改革とは、単に定数や報酬を減らすことではない。それは効率を重視する行政改革の発想で、民主主義の実現を目的とする議会改革とは相いれない。例えば町村議の平均報酬は月額21万円。若い世代は議員報酬だけでは生活できず、年金生活者の男性など特定の層しか立候補しなくなってしまう。議員の調査活動をサポートする議会事務局の増強も必要だ。
日本では、政治や行政に無関心な市民が多い一方、政治家や公務員を「税金で食っている特権層」と敵視する市民も少なくない。そういう政治文化は変えていかなければならない。
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