2016年6月3日金曜日

【にっぽん再構築・地方議会が危ない(2)】メンツ争いで“議会崩壊” 予算案お流れ 首長答弁封鎖… 

<産経新聞より>



「日本一ひどい地方議会だ。恥ずかしい」。ある県議は顔を赤らめた。

 3月23日午後5時。議長ポストをめぐる自民党系2会派間の対立で紛糾していた山梨県議会は最終日の閉会時刻を迎えて流会となり、平成28年度予算案が廃案となった。

 生活に直結する予算案が廃案となるのは、全国都道府県議会議長会の記録が残る19年以降、例がない。

 同県では、議長など主要ポストを自民系の最大会派が独占。今回、議長経験がない4期目議員を推す自民系第2会派が旧民主党系など複数の会派と結託して奪還に動き、23日午後に石井脩徳議長の不信任決議案を提出、可決された。

 賛同議員は、拘束力のない決議を拒んで議事続行を試みた石井議長に対し、審議をボイコット。再開も協議されぬまま時間切れに。「議会事務局に延長を求めていたはずだが…」と議場に戻った一部議員も呆然(ぼうぜん)としていた。

 後日、予算案は後藤斎知事の緊急時の専決処分で執行可能となったが、印刷代など約500万円を追加出費。議長人事をめぐる会期末の内紛は恒例行事だが、「今回ばかりはあきれてものも言えない」(50代会社員)と県民は冷ややかだ。

 

 議員が首長に対する質問を集団で忌避する“議会崩壊”も起こっている。

 埼玉県議会で昨年12月、上田清司知事が出席する予算特別委員会の総括質疑が計16時間半から2時間半に減らされるルール変更が自民党の主導で行われた。

 上田氏は1期目の16年、自らの任期を3期12年とした多選自粛条例の制定をリードした。ところが、昨年8月に自民の反対を押し切り4選したため、総スカンを食らったのだ。

 28年度予算案を審議した3月の県議会では、恒例だった知事と自民議員との丁々発止のやりとりが見られず、事務方の部長らが制度説明を延々と続け、議論は低調となった。

 「大人げない」という他会派の批判にも、自民幹部らは「上田氏の『独演会』が封じられる」「答弁の質は上がった」と満足げ。このルール変更に対して県に寄せられた苦情はゼロ。県民の議会への関心がそもそも低いことを露呈した。

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 議員の問いに執行部が答える一方通行が議場の“常識”。かつ職員に質問を作らせる議員も少なくない。用意された想定問答を互いが読み上げる光景に、鳥取県知事を務めた慶応大の片山善博教授はかつて、「全国のほとんどの自治体議会は、八百長と学芸会をやっている」と批判した。

 

 台本のないやりとりを結果に結びつけようとする試みもある。そのひとつが、議員同士が意見をぶつけ合う「議員間討議」だ。

 自治体議会改革フォーラムの27年調査によると、条例などで議員間の自由討議を規定する地方議会は34・2%。ただ、調査前年に討議を実施した議会は21・2%にとどまる。

 神奈川県内のある自治体も議会基本条例で「議員間の自由闊達(かったつ)な討議を重んじる」と定めたのに一度も実施されない。議会関係者は打ち明ける。「ベテラン議員ほど『やっても議論が続かない』と懸念する声が大きい」

 議員の質問能力向上には、執行部から議員へ逆質問ができる「反問権」の確立が欠かせない。

 しかし、3月4日に開かれた松山市議会本会議は、その反問権をめぐり執行部と議員間で激しく火花が散った結果、8時間も議会が空転する前代未聞の事態が起こった。

 65歳以上の市民を対象にした公衆浴場入浴料の補助金をめぐり、岡雄也議員が増額を要求したのに対し、市担当部長が答弁後、議長に反問権行使の許可を得た上で、こう気色ばんだ。

 「実施した場合、予算額は(平成27年度の)14倍、8千万円が必要だ。これを踏まえ考えを聞かせてほしい」。財源を気にする執行部としては当然の反問だ。

 

 ただ、岡氏は「公衆浴場に入れる(市民の)機会が少しでも公平になるようにと提案した」と答えるのが精いっぱい。結局、財源を示せなかった。その後、岡氏の休憩の動議が認められ、議会がストップした。

 昨年7月に制定された市議会基本条例には「議長の許可を得て、議員の質問に反問することができる」と明記されている。

 ところが、議会側は「答弁終了後の反問が実施要項に反している」と認めず、市側も「議事進行に混乱を招いた」と陳謝。初の反問権の行使となるはずだった発言は幻と化し、議事録からも削除された。

 早大マニフェスト研究所の地方議会調査によると、「反問権」の普及率は26年度、43%だったが、19%は未実施。制度化されたのに“宝の持ち腐れ”となっているのは「議員間討議」と同じ。勉強不足の露呈を議員が恐れ、活用に躊躇(ちゅうちょ)している実態が浮かび上がる。

 「昭和20年代、東京都の墨田区議会の議事録を見ると、『灰皿が飛び交った』という記録がある。かつては議員同士の活発な議論があった」。自治体議会政策学会会長の竹下譲・拓殖大客員教授は指摘する。

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 地域の民意を束ねる立場の議員には、立法能力も求められる。その強化の一助となるのが、議会事務局員のスキルアップだ。

 「議員は必ずしも法律の専門家ではない。議員の議論に耐えられるよう、あらゆる論点を幅広く調査することになる」

 4月18日、衆院法制局の庁舎7階研修室。講師役の職員が、資料収集と調査の方法を丁寧に指導する。必死にメモを取る新人職員に紛れ、沖縄県や名古屋市など自治体職員も5人いた。

 5人は各自治体から派遣され、衆院議員の立法活動を補佐する法制局からノウハウを学ぶために“弟子入り”した研修生。いずれ議会事務局員となって議員を支える。

 衆院関係者の橋渡しで平成11年に福岡市から職員を受け入れたのがきっかけ。過去一度も公募しておらず、口コミで広がった特異な研修制度だ。現在は8自治体から受け入れている。

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 空き家倒壊被害防止条例、ピンクチラシ根絶条例…。福岡市議会では近年、年に1件のペースで議員提案の条例が成立している。

 

縁の下の力持ちとなったのが、研修を終えた市議会事務局員8人だ。同局幹部は「議案の賛否だけでなく、生活に密着した課題を条例を通じて解決しようとする動きが議員の中から出てきた」と効用を語る。

 三重県でも12年度から県職員計8人が衆参両院法制局に派遣された。存在感を出せない議会に危機感を持った県議らの要望を受けたものだ。結果、16年度から10年間で外郭団体を監視する県出資法人基本条例など計18件の議員提出条例を成立させた。議会の権能再生が図れたケースといえる。

 ただ、国会に属する衆参法制局と違い、議会事務局はあくまでも自治体職員。議員が頼りすぎれば、執行部の思惑が絡み、かえって議員立法がコントロールされる危険をはらむ。

 「執行部には、何もしない議員の方が都合がいい。だから能力の高い職員を事務局に送りたがらないのが現実です」と関東のある女性県議は明かす。

http://www.sankei.com/politics/news/160519/plt1605190005-n1.html

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