2016年6月5日日曜日

【にっぽん再構築・地方議会が危ない(4)】議員報酬国際比較 英は手当のみ年140万円、タクシー禁止…高額の日本で議員の劣化なぜ?

<産経新聞より>





議会制民主主義発祥の英国。地方議会は夕食後に始まった。

 4月27日夕、首都ロンドン特別区の一つ、ウェストミンスター区が運営する公共施設ポチェスターセンターに、60人の区議が三々五々集まった。医師、弁護士、作家、博士課程の大学院生…大半は仕事を終えて駆けつけた議員たちだ。

 同センターはロンドン最古の公衆浴場があり、昔から市民が議論を交わす場所だった。議場は普段、パーティー会場として市民にも開放される2階ホール。

 議員らが片隅に用意されたビュッフェからサケやシチューなどの料理を取って軽い夕食を済ませると、午後7時、議会は始まった。

 44議席と約7割を占める保守党議員と、16人の労働党議員が左右にそれぞれ陣取り、中央のひな壇に座る議長がまず呼びかけた。

 「議長をリリーフ(救援)できる議員はいますか」。議長に不測の事態が起きた際に備え、挙手で応じた議員を「リリーフ議長」に指名する。これが開会の“儀式”だ。続いて各議員の利害が絡む団体や組織を自己申告。質疑応答では与野党問わず、議員間の活発な議論が交わされた。

 

「繁華街の大通りの歩行者専用部分を増やしたらどうか」。保守党議員からの質問に、同じ党の交通担当の閣僚が、「車道を狭めると、交通渋滞が深刻化して、大気汚染も悪化する」と反論。路上駐車の大型自動車に250ポンドを徴収する案や再開発地区のビルの高さ制限案などをめぐり、審議は午後9時すぎまで続いた。住民数人が配布された討議資料を手に傍聴していた。

 時間帯、討議のスタイル…日本の地方議会と全く異なる光景だった。

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 英国では、「カウンスル」と呼ばれる議会が執行権を兼ね備えた歴史から、自治体も“議院内閣制”をとり、議会から首長(リーダー)が選ばれ、内閣を組織。議長(メイヤー)には主に多数党の長老が選出され、自治体を代表する。

 地方議員は「名誉職」意識が強く、約20年前までは無報酬のボランティアだった。高い志を持ち、パートタイムで働いたり、生活保護を受けたりしながら活動を続ける議員も多かった。

 

しかし、議会で中心的な役割を果たすほど生活苦に陥るジレンマも。若い人材が集まらなくなり、約10年前から報酬増の動きが自治体に広がった。

 BBC放送によると、地方議員の平均年齢は約60歳と高齢化し、若者が議員活動に専念できるよう「高額な日本の地方議員」をモデルに、高額報酬の導入を検討する自治体も出てきた。

 日本では「高額報酬を維持したさに集票活動に入れ込み、質の劣化を招いている」(元県議)と指摘されているのだが…。

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 ウェストミンスター区議の報酬は「給与」ではなく「手当」で、今年は年9千ポンド(約140万円)。リーダー(区長)には3万5千ポンド、閣僚には1万ポンドなどが追加支給される。閣僚となれば活動時間が長くなり、責任も重くなるからだ。

 「議員は社会奉仕。市民としての任務だから手当で十分」。ティム・ミッチェル区議(57)は胸を張った。

 

ビッグベン(国会議事堂)や首相官邸など政府中枢が集中するウェストミンスター区は首都ロンドンの心臓部。東京でいえば、千代田区にあたる。

 ITコンサルタントの仕事を持つティム・ミッチェル区議(57)=写真上=は「コミュニティーに役立ちたい」と18年間議員を続けてきた。内閣ナンバー3の財務担当閣僚でもあり、週3日は区議業務に充てる。

 リーダー(区長)のフィリッパ・ロー氏は金融機関のCEO(最高経営責任者)出身。副リーダーも就任後弁護士を休業した。区議は、金銭的に恵まれた専門職や富裕層の地域奉仕という性格が強いようだ。

 「公費と私費」の考え方は日本と違う。市内では交通費は支給されず、タクシーも原則禁止。会議出席などの出張旅費は最も安い基本運賃の実費が支給されるだけ。許可されれば海外出張などで航空機利用が認められるが、空港まではバスか地下鉄利用に限る。宿泊費や食費などの日当は1日180ポンド(約2万8千円)まで認められる。

 

同区議の平均年齢は約40歳と若く、国政を目指す者もいる。キャメロン政権のグレッグ・クラーク地域社会自治相も同区議出身だ。

 「青雲の志を持った若者が身を粉にして地域のために汗をかいて、やがて国のために働く例も増えている」とミッチェル氏。

 一方、英国では2014年にスコットランド独立住民投票が実施され、来月には欧州連合(EU)離脱をめぐる国民投票を控える。日本でも、地方議会が機能不全のまま住民投票の制度化を図る動きがある。

 しかし、ミッチェル区議は、「住民は、教育や交通、住宅など生活に密着した問題については、国政レベルではなく身近な地方議会での冷静な議論を求めている。われわれも国に住民の意思を反映させていると思う」と語り、「議会制民主主義こそ地方自治の基本」と強調した。

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 北欧フィンランド。首都ヘルシンキから西約250キロにエウラヨキ町がある。原発2基が稼働し1基が建設中。郊外の島に世界初の高レベル放射性廃棄物の最終処分場「オンカロ」が23年から操業の予定だ。

 「学生から年金生活者まで、いろんな人が議員にはいる」。元町議のアルッティ・ルカンデルさん(79)は話す。

 地元で原発を建設した電力会社の社員時代に「民主主義を実行したい」と立候補。副議長も務め72歳で引退した。原発に関する議案を諮る際には「棄権してきた」という。

 フィンランドの自治体は委員会、理事会、議会の3段階で議案が上がり、議会は最終意思決定の場。理事会は方向性を決める行政の中心機関だ。その下の委員会は議員だけでなく政党が推す一般住民も参加する。

 

同町では、理事会は隔週で午後3時、議会と委員会は月1回で午後6時から開会。報酬は議会1回当たり100ユーロ(約1万2300円)、委員会は1回60ユーロの手当。理事会だけ時給制で1時間100ユーロ。原発があり財政が比較的裕福なためで、他の自治体では20~30ユーロもざらだという。

 「金銭的な恩恵はないし、それが目的で立候補する人もいないよ」とルカンデルさんはいうが、フィンランドは人口と対比した議員数は多く、人気も高い。

 人口6千人のエウラヨキ町の定員は27人。3年前の選挙では定数の倍以上の59人が立候補した。

 女性議員は10人いる。そのひとり、エリナ・タフティヴォリ町議(58)=同下=は現在4期目。従業員2人の清掃サービス業を営む。

 「少しでも町を良くしたい。でも仕事は大変。自分で調べて勉強する時間を確保しないと、議論からも取り残される。眠れなくなることもありますよ」

 

タフティヴォリさんは簡素な町役場の一室で語る。テーマは原発から社会保障まで幅広く、来年は隣接するルビア町との合併も控え、議員の調査・研究活動に費やされる時間も長い。

 「尊敬されるわけでもない。議員はただの代表者で住民と同じレベル。仕事を持った普通の人の中から選ばれていることに意義があるのかもしれない」

 地方議員とは、つまりボランティアなのだ。

http://www.sankei.com/world/news/160522/wor1605220018-n1.html

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