2018年11月19日月曜日

「有権者育てた模擬投票」・・・議会改革をたどって

<朝日新聞より>

議会報告会や議場での市民フリースピーチ制度などを通して住民の多様な意見をくみ取り、それを政策に練り上げて成果を出している議会を紹介してきた。連載の折り返しを過ぎた今回は、そんな頑張っている議会のなかでもユニークな成果をあげた岐阜県可児(かに)市議会を取り上げたい。

 地元の高校で本番さながらの模擬投票をバックアップし、18歳選挙権が初めて導入された2016年参議院選挙で、高校生の投票率アップにひと役買ったのだ。

 その投票率がすごい。全国の18歳の投票率51・3%に対し、その高校は90・8%。でも、どうして地方議会が高校生の「主権者教育」にそこまで入れ込むのか。

 議会と高校との連携を仕掛けた川上文浩(57)に聞くと、「人口減少への危機感です」。山間へき地でもなく、人口は約10万2千人。しかし、いずこも同じ15歳から64歳までの「生産年齢人口」は減る一方。特に若者の流出が課題なのだという。

 名古屋市までは電車で約1時間と近いが、多くの若者は高校卒業と同時に進学や就職でまちを離れ、戻ってこない。13年に議長になり、議会も何かできないかと考えた川上が着目したのが、地元の県立可児高校で取り組まれていた「地域課題解決型キャリア教育」だった。

 地域を担う人材を育てる第一歩は、魅力的で多様な大人が地域にいると知ってもらうことだ。高校生と大人が出会い、一緒に考える場をつくりたい。議会が間に入れば商工会議所や医師会だって協力してくれる。川上の提案は高校のめざす方向性と合致。14年夏、議会主催という世にも珍しい、高校生との地域課題懇談会が始まった。

 そして18歳選挙権導入を控えた15年12月の懇談会のテーマは「どうしたら選挙に行くのか」。会が終わった後、生徒会長の田口裕斗(ゆうと)(20)がこう言った。「模擬選挙をやってみたい」

 川上が応じた。「本気の大人が関わって、本気の模擬投票をやるぞ」。市長選を想定して、候補者役の生徒3人が医療やにぎわいづくりなどをテーマにマニフェストをつくり、議員はその政策づくりを手伝った。

 立会演説会を開いた際には、川上が何を基準に選ぶのかをレクチャーした。投票箱や投票用紙は選挙管理委員会にたのんで本物を使った。結果、4カ月後の参院選で可児高校の18歳有権者87人中79人が投票したのだ。

 いま、立命館大学に通う田口は将来、故郷で市長をめざそうかとも考えている。「政治や選挙を身近に感じるようになった、あの模擬投票がきっかけです」

 可児市議会は委員会に代表質問を採り入れるなど、数々の先進的な議会改革で全国に知られる存在だ。しかし、なかでも高校との連携を川上は大事にしている。「一人でも多くの若者が地域に残ってほしいので。それに、いい地域をつくるために、いい有権者を育てるのも議会の仕事だと思っています」=敬称略(神田誠司)


https://www.asahi.com/articles/DA3S13757691.html

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