2016年5月27日金曜日

第46回 住民と対話する議会を目指して~青森県六戸町議会の議会報告会改革から

<政治山より>
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第46回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。今回は、「住民と対話する議会を目指して~青森県六戸町議会の議会報告会改革から」をお届けします。
町民と議会との意見交換会の様子
町民と議会との意見交換会の様子

議会と住民が対話する場とその工夫

 議会への住民参加のあり方が問われています。早稲田大学マニフェスト研究所が実施する「議会改革度調査2014」によると、議会報告会、住民説明会、意見交換会など、議会が住民に説明し意見を求める場を開催している議会は年々増加、2014年度はほぼ半数の48%の議会が、そうした場を設けているとしています。ただし、『議会基本条例』などにより、議会報告会の開催を義務付け、制度化している議会は、21%と2割程度にとどまっています。
 開催している議会の悩みとして、参加者の減少と固定化、特に女性や若者の参加が少ないことが挙げられます。また、毎回似たようなテーマ設定で、参加しても面白くない。陳情、要望、議会の糾弾会になりがちで、前向きな話し合いができないことも課題です。
 こうした状況を踏まえ、一部の議会では、市民が参加しやすい日時に設定を変更する(52%)、内容も、市民が興味を持ちやすいテーマにする(35%)など、開催方法に工夫をする議会も出てきています。しかし、会場のレイアウトと進め方をグループワーク形式に変更した議会は6%と、まだまだ少数です。従来型の対面式の会場配置では、話し合いが議会対住民といった討論になり、また、感情論が展開され、「批判のための批判」になりがちです。議会と住民が対等で、双方向の対話を行うには、少人数のグループサイズによるワークショップ形式での開催も有効です(コラム第20回「市民との対話が生まれる新しい議会と市民との意見交換会のあり方」)
 しかし、ワークショップ形式に消極的な議員も多く、導入がなかなか進んでいません。今回は、従来型の対面式の議会報告会から、勇気をもって一歩踏み出し、ワークショップ形式の町民と議会との意見交換会にやり方を工夫、変更した青森県六戸町議会の事例を紹介しながら、住民と対話する議会のあり方を考えたいと思います。
議員が聞き役に町民の意見を拾い集める
議員が聞き役に町民の意見を拾い集める

六戸町議会の改革の取り組み

 六戸町議会では、2012年2月から議会改革の検討をスタートさせてきました。議会改革検討委員会を設け、約50項目について延べ15回協議・検討し、筆者も専門的知見を担いアドバイスをしながら、2014年12月議会において、『議会基本条例』が可決、制定されました。条例のポイントは、「町民参加」「開かれた議会」「活発な討議」の3点です。
 議会報告会は、基本条例で制度化される前の2014年2月、そして、2015年2月の2回開催されていました。2回とも、町文化ホールで対面式、議員12人と町民約80人が対峙する会場配置で開催されました。内容は、定例会での審議内容の報告、各委員会の活動報告、意見交換の3本立てで、一般的な議会の議会報告会のスタイルと同様のものです。議会報告会が開催されたことは大きな一歩でしたが、発言する町民が限られ、議会への不満、行政へのお願いも多く、前向きな意見が少なかったことが、課題として挙がっていました。
従来の六戸町議会の議会報告会
従来の六戸町議会の議会報告会

議会報告会をワールドカフェ・スタイルに

 六戸町議会では、議会報告会のやり方に工夫が必要だといった問題意識はありましたが、その具体的な方法論についてのアイデアがありませんでした。そんな中、これまで基本条例制定に向けてアドバイスを行ってきた筆者に円子徳通議長から相談があり、ワークショップ形式での開催を提案しました。とはいえ、円子議長をはじめ、六戸町議会の議員、事務局職員のほとんどのメンバーが、ワークショップに参加した経験がありませんでした。「ワークショップって何?」「テーブルで何すればいいの?」「テーブルで集中攻撃されない?」など不安だらけのようでした。
 まずは、研修として体感してみることとし、当日と同じ話しやすい会場の雰囲気(赤と白のテーブルクロス、BGMのボサノバ、お菓子と飲み物を準備)を作り、同じテーマで模擬練習を行いました。研修終了後、多くの議員にうまくできるかもしれないと期待を感じてもらうことはできましたが、不安が完全に一掃されたわけではないようでした。最後は、だまされたと思ってやりましょうと、私が大きく後押しをしました。
リハーサルの様子

リハーサルの様子
2016年2月27日、町就業改善センターで開催された「町民議会の意見交換会」には、町民29人と全議員12人が参加しました。議員はスーツではなく普段着で、8つのグループに議員が1~2人が入るようにして、ワールドカフェ・スタイルでワークショップを行いました。ワールドカフェとは、5~6人の少人数のグループで、席替えをしながら対話を積み上げていくワークショップの手法です。
 全体のファシリテーターは私が行いました。「20年後の六戸町」といったテーマで、「六戸町の誇れるところ、残念なところは?」「20年後どんな六戸町になっていたいか?」「20年後のありたい六戸町を実現するために、町民と議員が大切にしたいことは?」の3つの問いで対話が行われました。町民からは、「地産地消の循環型社会の町を目指そう」「町全体が交流する町にしよう」「オリンピック選手やプロゴルファーが生まれる町になりたい」などの20年後の町のビジョンや、そのために、「町民の声を反映させる議会に」「Uターン・Iターン者を大切に」「人材を有効に活用しよう」といった前向きな意見がたくさん出ました。議員の皆さんの不安は杞憂に終わり、対話、ワークショップ型の議会報告会に大きな手ごたえを感じたようでした。
グループで町民と対話する議員
グループで町民と対話する議員
議会報告会をワールドカフェ・スタイルに変更した感想を、円子議長は以下のように語っています。「当初不安もあったが期待以上の成果だった。終始参加者も議員も笑顔で穏やかな時間を共有することができた。当日は20代から60代までと幅広い層の町民が参加し、参加者からは議員と町民との距離が縮まった、次もいろいろな場所で開催してほしいとの声が聞かれたので、次回も同じワールドカフェ・スタイルで行いたい」。
模造紙に書かれた20年後の六戸町の未来
模造紙に書かれた20年後の六戸町の未来

次のステージは住民との対話を政策につなげる

議会報告会は、市民との対話を通して、市政課題への共通の認識を持つこと、課題解決への協働を進めることを目的に開催されるものです。最近、議会報告会を対話、ワークショップ形式にするための研修会の講師依頼が、筆者のところにも増えています。2016年に入ってからも、福島県会津若松市議会、千葉県袖ヶ浦市議会、青森県青森市議会などで研修を開催しています。議会報告会の開催方法に問題意識を感じている議会が増えているためだと思います。
 議会報告会、市民との意見交換会の開催方法には、いくつかのパターンがあると思います。対象者を、地域別にするのか、テーマ別にするのか。会場配置を、対面式にするのか、ワークショップ形式にするのか。内容は、報告中心にするのか、報告+意見交換にするのか、意見交換中心にするのか、特定テーマでの意見交換にするのか。会議の進行は、議員が行うのか、専門家が行うのか、議会事務局が行うのか、市民が行うのか。やり方のパターンは、この組み合わせなのだと思います。あらゆる場面において、ワークショップ形式が良いわけではありません。それぞれの議会が、報告会、意見交換会開催方法のバリエーションの一つとして、ワークショップ形式でができるようになるべきだと思います。また、活発な話し合いが行われるためのファシリテーションのスキルを、議員や議会事務局職員が身につけることも必要になります(コラム26回「ファシリテーションを身につけ議会に対話の文化を」)
 ワークショップ形式の市民との意見交換で、市民と対話を行うことはあくまでも手段です。重要なのは、住民との対話から出てきた意見、政策のタネをどのようにして、議会の政策形成サイクルに取り入れ、成果につなげていくかということです。そのためには、議会の中での議員間討議における対話、議論といった話し合いの精度を高めていくことが併せて求められます。
六戸町議会議員の皆さん
六戸町議会議員の皆さん
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佐藤淳氏
青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。




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