2017年7月15日土曜日

都議選で議論になった「二元代表制」 知事と地方議会の理想の関係は?


THE PAGEより>

都議選を通して大きな論点の一つになったのが「二元代表制」の議論です。東京都の小池百合子知事が自ら率いる地方政党の代表になった6月ごろからこの二元代表制という言葉がニュースに頻繁に登場するようになりました。ともに民意を受けた知事と議会が地方政治をになっていくこの制度ですが、知事と議会は対立し、議会はチェック機能を発揮すればよいという単純な制度ではなさそうです。

 政治学が専門で岡山大学名誉教授の小畑隆資氏は、ひとくちに二元代表制といっても、3つの類型があると指摘します。二元代表制とは、どのような制度設計になっていて、議会にはどのような役割が期待されるのか。小畑氏に寄稿してもらいました。

都議選にみる二元代表制への理解

 東京都議選(72日投開票)は、戦後はじめて、都知事が率いる地域政党が最大会派を目指して選挙戦に臨んだという点で、大きな関心を集めました。小池百合子都知事は地域政党「都民ファーストの会」代表として、「古い都議会を新しく」と訴えて、議会改革を真正面から掲げて圧倒的な勝利を収めました。首長と議会の「二元代表制」のあり方をめぐって論戦が交わされたことは、都議会のみならず、今後の地方議会のあり方を考える上での重要な出発点になるものと思われます。ここでは、都議選での議論を出発点として、あらためて「二元代表制」の意義と今後の地方政治のあるべき方向性を考えます。

 今回の都議選で「二元代表制」の議論はもっぱら、議会の首長に対するチェック機能という点で論じられていたように思われます。都知事に率いられた地域政党や都議会会派は、結局、都知事の「イエスマン集団」あるいは「チルドレン」でしかなく、首長と議会は本来「車の両輪」であるべきなのに一輪車になってしまう。それは、「一元代表制」であり首長独裁だ、というのが主として自民党からする批判の焦点でした。

 それに対する、都知事の反論は、自民党が最大会派であるこれまでの都議会で、議会の首長に対するチェック機能があったのか、豊洲市場や五輪費用の問題を見れば、これまでの都議会こそ「一元的」ではないかというものでした。

 ここでは、首長と議会の関係は二元代表制こそあるべき姿で、そのもっとも重要な議会の役割は「議会のチェック機能」にあるという点は、お互いの共通了解となっていることは確認できると思います。また、二元代表制とは、首長と議会はそれぞれ別の選挙で選出され、「首長=執行機関」、「議会=議決機関」という、選出及び役割において「二元」的であるという共通する理解があったことも間違いありません。

 
「合議機関」としての議会の独自性

 しかしながら、議会が「議決機関」であることと、それがどのようにして「チェック機能」を発揮することができるのかについては、議論が深められることはありませんでした。そこで、あらためて首長と議会について、それぞれの独自性について見ておきます。

 首長とは、条例、予算などについて議会の議決に基づき行政事務を管理・執行する「執行機関」を所轄する者で、行政権の長のことを言います。そこでの最終的な判断と責任はこの組織の頂点に立つ首長1人が負うことになります。これを「独任制」と言います。

 それに対して、議会は、主として条例を制定したり、改正・廃止したりし、予算を定め、決算を認定する議決機関、すなわち“立法機関”です。議会(議決機関)は、首長(執行機関)とは異なって、立場が対等平等な複数の議員から構成され、その議決にいたる過程までにいかに議論を深め、議会としての合意形成にたどりつくのかが、議会のあり方を規定していくことになります。

 こうした議会のあり方を「合議制」と言い、議会は議決機関であると同時に合議機関であるという点で、首長(執行機関)の「独任制」とは異なる大きな独自性をもっています。都知事1人に対して都議会議員127人の意味がそこにあるわけです。

 都議会がその存在意義を発揮できるのは、127人いるからこそ出来る役割がある、ということにあるはずです。議会が有効な仕事ができるのは、第一に議員が年齢・性別・職業・思想など実に多様な多数の人々から構成され、しかも多様な地域から選出されてきているという点にあります。議員はそれぞれ直接に有権者の身近な存在として、その生活の実態に触れ、その多様な声を聴き、それらを政党や会派を通じて議会全体の政策として反映していくことが基本的な仕事です。

 第二に、そのために必要なことは、有権者の切実な現実を踏まえた上での議員同士の議論であり、政党・会派間の議論です。こうした合議機関としての役割を尽くすことが議決機関としての役割を果たす上で不可欠なわけです。

 そして、この過程は、有権者に開かれた過程として公開性が確保されなければならず、有権者に対する説明責任を果たさなければなりません。

 こうした議会の「合議機関」としての役割の遂行によって、はじめて「議会のチェック機能」が発揮できることになります。首長1人では有権者との通路は狭すぎます。また、その判断も独断的になったり恣意的になったりする危険性があります。また職員はどうしても有権者の声を行政的な事務問題として事務的に処理しがちになります。議会の独自の役割は、この「首長=執行機関」の限界をチェックして、場合によっては補完し、さらには自ら発案して条例を制定することにあるわけです。
 

二元代表制での首長と議会の関係

 首長と議会の二元代表制については、日本の国政レベルでの「議院内閣制」に対するアメリカの「大統領制」になぞらえてする理解があります。

 日本の地方制度は、議会が首長の選出機関ではなく、それぞれが有権者の選挙によって選出されるという点で、アメリカの大統領と議会の二元代表制を基本に置いていることは確かです。この点で、二元代表制下の日本の地方議会では、議院内閣制的な意味での与党・野党という区別は原則的にはありません。

 他方で、日本の地方制度での首長と議会の関係はアメリカ大統領制とも大きく異なっています。アメリカの大統領には議案提出権も予算案の提出権もありません。議会に対する解散権もありません。議会が一元的な立法機関すなわち議決機関です。しかし、日本の地方の首長は、議案提出権はもちろん予算調整・提出権から専決処分権、そして、議会の不信任決議への対抗手段としての議会解散権も持っており、議決権にも深く関与しています。地方議会が首長の不信任を決議することが出来るのも、議会の執行権への関与を認めていることになります。

 こうして、選出において明らかに二元的な代表制をとりながら、「執行権=行政権」と「議決権=立法権」が明確な二元性ではなく相当重なり合っているところがある点に、都道府県など地方公共団体の二元代表制の大きな特徴があるわけです。

 二元代表制とは、首長と議会が、「独任制」と「合議制」というそれぞれの独自性を十分に発揮して、政策の「立案」(首長+議会)、「決定」(議会+部分的には首長も)、「執行」(首長)そしてチェック機能としての「監視・評価」(議会)の役割を、両者が相互に行う制度構想であると言えます。二元代表制の制度構想は、理念型としては「首長=議会連携型」だと言ってよいと思います。日本の制度では「首長=執行」「議会=チェック」というようには単純化できない設計になっているわけです。

 こうした「首長=議会連携型」の追求は、典型的には、議会基本条例(2006年制定、2012年改正)を都道府県の中では最初に制定した三重県議会に見ることができます。三重県議会では、そもそも議決機関としての議会とは何なのか、議決責任とは何か、そこでの議員個人、政党・会派、議会全体の関係はどうあるべきか、議会の首長と異なる独自性は何か、首長と議会の二元代表制の関係等々について議論を重ね、議会の役割についての共通認識と合意形成につとめ、議会基本条例の制定・改正に結実させてきています(第8回議会基本条例に関する検証検討プロジェクト会議(2012213日)の「議事概要」三重県議会ホームページ参照)。

 そこでの首長と議会の関係は、まさに首長の執行権と議会の議決権が二元代表制を基本としつつも、両者がオーバーラップしている点に着目し、そこに首長と議会が「緊張ある関係」を形成してそれぞれの独自性を発揮して、有権者の負託に応える最善の結果を出すことを追求しています。まさに「首長=議会連携型」(この言葉が使われているわけではありませんが)の二元代表制を構想しています。

 そして、それまでは県議会の定例会年が4回(=総会期日数約100日)の会期を、2007年から年2回(=約230日)に、さらには2013年から年1回(=約340日)の通年議会へ、議会活動を活発化させてきています。その他、本会議場を国会の党首討論のような「対面方式」に改修し、一括質問方式や一問一答方式を導入し(2003年)、常任委員会や特別委員会での議員間の議論の推進に取り組んできています。

 ここで重要なことは、こうした議会改革活動が、議会基本条例を根拠として行われ、総括されていることです。それは議会の行動基準であり、また有権者への議会としての公約でもあるわけです。こうした活動のいくつかは、徐々にその他の都道府県あるいは市町村議会に取り入れられてきています。
 

「連携」「併存」「独裁」3つの類型

 さて、二元代表制の「首長=議会連携型」が、首長の独任制と議会の合議制を二つの軸にして両者が最善の結果を生み出す理念型としてあるとすれば、首長の独任制が議会の独自性を発揮させずに首長の支配下に掌握する「首長独裁型」と、他方で、議会の合議制が議会の中から強力なリーダーを輩出し首長を議会の下請け機関として駆使する「議会独裁型」も、理念型としては想定することができます。「首長独裁型」は独任制で一つの意思が最初から存在しており、首長の強力なリーダーシップがあれば可能で、「議会独裁型」に比べてはるかに現実的です。

 橋下徹大阪府知事(当時)の地域政党「大阪維新の会」による議会掌握の試みは、議会の中に首長主導の“与党”を構築し、首長と与党で野党と対決する「首長=与党」一元体制の構築を目指す「首長独裁型」で、実質的には首長の独任制への一元化を追求するものと言えます。

 そして、制度的にも二元代表制ではなく「議院内閣制」を地方自治のあり方として追求しようという試みもなされました。橋下府知事は当時、英国の地方政治制度やフランスの半大統領制などを参考に、 地方議会の改革構想として「議院内閣制型の議会内閣制」を主張していました。「首長が、議会の推薦を受けた議員を“内閣構成員”として政治的任用することで、首長と議会が行政のあらゆる経営判断と責任を共有する」(第2回地域主権戦略会議への提出資料、201033日)という構想です。

 これは、首長と議会の二元代表制下の「首長=議会連携型」の構想とはまったく異なる、首長主導による「首長=与党」の一元体制、ひいては「首長=議会」の一元体制を目指すもので、首長主導の下に議会を掌握しようとする「首長独裁型」への動きでした。

 ところで、こうした3つのどのパターンにも入らない「首長=議会併存型」ともいえる類型があります。その中には、首長と議会の「癒着」「対立」のパターンも含まれますが、これらはすべて、首長の独任制と議会の合議制というそれぞれの独自性を発揮することもなく、首長と議会最大会派がそれぞれの領分と既得権を保守することを最大の関心に動いているタイプで、根本にあるのは、首長と議会の「併存」です。

 なお、上記の「首長=議会連携型」「首長=議会併存型」「首長独裁型」の3類型はあくまで理念型であって、現実の自治体は、純粋にこの類型に当てはまるというものではなく、混合型であることは言うまでもありません(念のため)。最後に、これを踏まえて、小池都知事と都民ファーストの会の今後を考えてみます。

 
「新しい議会」へ改革体制築けるか

 今回の都議選で、小池都知事は地域政党「都民ファーストの会」代表として、「古い議会」から「新しい議会」へと議会改革を真正面から掲げて圧勝しました。選挙戦では、自民党を最大会派とする都議会を馴れ合い癒着の「首長=議会併存型」として批判し、首長が主導する議会改革の主体に自らの与党として「都民ファーストの会」を送り込んだわけです。この限りで、「大阪維新の会」を率いる橋下府知事(当時)のそれと同じパターンで「首長独裁型」による都議会掌握の試みであると言えます。

 にもかかわらず、そこには大きな違いもあるように思われます。選挙翌日、小池都知事が「都民ファーストの会」の代表を辞任したことは、その違いを示唆しているように見えます。なぜなら、「二元代表制等々への懸念があることも想定すると、私は知事に専念する」として代表を辞任したということは、小池都知事は、明確に二元代表制の理念の下に都政運営あるいは議会改革に臨むということを表明したと言えます。橋下氏=「大阪維新の会」のような一元的な「首長独裁型」を追求する姿勢はとらないとの表明であるからです。ましてや、古い自民党的な「首長=議会併存型」と決別することは、選挙中も含めて小池都知事の一貫した姿勢であることも間違いないはずです。

 とするならば、知事と議会というそれぞれの独自性を発揮した「首長=議会連携型」を追求する以外には、その選択肢はないはずです。小池都知事、そして「都民ファーストの会」は、首長と議会の二元代表制をどのように理解しどう運営し、どのような新しい議会慣行や制度を築き上げていくのかが問われているわけです。

 「都民ファーストの会」は議会最大会派としてのリーダーシップを発揮して、議員や政党・会派が共有できる都議会の定義を「議会基本条例」として制定することができるのか、そしてそれに基づく議会改革の計画と体制を築き上げることができるのか。また、小池都知事は、議会改革のために必要な、議員・政党・会派の政策立案・決定・評価能力形成に資する議会事務局の体制を整えることができるのか。小池都知事が都民ファーストの会や議会と今後どのような関係を築いていくのかは未知数ですが、都議会が、今、新しい議会に生まれ変わることができるのかどうか、その正念場に立たされていることだけは間違いないように思われます。

■小畑隆資(おばた・たかよし) 岡山大学名誉教授。名古屋大学大学院法学研究科博士課程、名古屋大学法学部助手などを経て、19764月岡山大学法学部講師。1985年岡山大学法学部教授。日本政治史、日本政治論を担当。20103月退職。自由民権の思想と運動の研究。最近は現代日本政治も研究。『基本的人権の政治学』(単著、岡山県民主教育研究会、2014年)、「地方議会と二元代表制――「議会基本条例」の意義」(岡山県議会ホームページ「議会基本条例を読む」、2013年)など

https://thepage.jp/detail/20170709-00000002-wordleaf?page=1

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